未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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思い出から生まれる「未来」のカケラ

諏訪の「リビルディング・センター」はただの古材屋ではありません!

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= ReBuilding Center JAPAN
未知の細道 No.87 |25 March 2017
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#5マスヤゲストハウス物語

 二人が最初にmedicalaとして手がけた物件が、実はこの諏訪地域にある。場所は、ここから電車で一駅の下諏訪。樹齢200年の杉の木を引き下ろす熱狂の祭り、「御柱祭」で有名な諏訪大社がある場所だ。

 ゲストハウスのオーナーの斉藤希生子さん(愛称はキョンちゃん)は、もともと、先のゲストハウス、Nuiなどで働いていた。旅が大好きなキョンちゃんは、なんと25歳の若さで自分もゲストハウスを開きたいと決意を固め、アズノさんたちにデザインを依頼。そして、彼女が見つけてきた物件が、20年前に廃業した下諏訪の「ますや旅館」だった。

 いつもの通りにアズノさんは、キョンちゃんたちと一緒になって、現場に泊まりこみながら作業を行うことを提案。「マスヤ」は、アズノさんにとっても初の「古民家」のリフォームである。それまでの案件では、解体現場などに行って古材をもらってきていたが、ここはそこかしこに古材があった。
大家さんが旅館を大切にしてきたことを感じられたので、リノベーション後も胸をはって大家さんと会えるように、なるべく元々あった材を再利用することを大切にした。
 一部屋のリフォームが終わると、別の部屋へ移動。その中で、あの時剥がしたあの床を、こっちに使おうなどと考えていくわけだ。

現在のマスヤゲストハウス。以前の旅館時代にはなかった吹き抜けのおかげで、気持ち良い光が取り込まれるようになった。

 アズノさん一人の時と大きく変わったのは、現場メシだった。カナコさんは、それまでの経験を活かし、その土地の食材を使って、健康的で肉体労働のエネルギーになる食事を作った。それを目当てにたくさんのボランティアが手伝いに来てくれたという。
 そして、三ヶ月ほどで新生「マスヤゲストハウス」が完成。その仕事がきっかけとなり、二人は下諏訪に拠点を移すことを決意した。その大きな理由は、カナコさんのアトピーだったそうだ。

「毎日温泉に入っていたせいか、その夏初めてアトピーが出なかったんです。よくよく考えたら、下諏訪、最高じゃん! うん、下諏訪に行こう! って思いついて、家を探したらマスヤから20秒のところに見つかり、移住を決めました」(カナコさん)

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未知の細道 No.87

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。