高校生の頃、ストリートダンスに夢中になっていた杉山さん。プロを目指してアメリカに飛んだ憧れの先輩の背中を追って、高校を卒業して間もなくニューヨークに渡った。「ひとつのことにのめり込むタイプ」の杉山さんは、本場のダンスを本気で学び、アルバイトをしながら、ブロードウェイやオフブロードウェイの舞台にも立つようになった。やりがいを感じていたけど、次第に「何か違う」という違和感も抱くようになった。
「お金をもらうと、こうしろ、ああしろって指示されて、自分の表現ができない。当時は若かったし昔から我が強いんで、ストリート向きじゃないなと思うようになりました」
モヤモヤしながらも、ほかに何をすればいいのかはわからない。そんなときに、アルバイトをしていた老舗レゲエレーベル「VPレコード」のショップで「本社で働かないか」という誘いがあった。杉山さんは「多分、人が足りなかったから誰でもよかったはず」と笑うが、そこにはダンスとは違う手応えがあった。
「本社ならアーティストに会えるかも、と思って働き始めたんですよ(笑)。そしたら、配属されたのが著作権やコピーライトを扱っている部署で、完全にデスクワーク。アーティストに会うような仕事じゃなくて、数字を扱うことが多かった。でも、もともと数学は苦手じゃなかったから、けっこう仕事が早かったんです。そうしたら、一緒に働いていた人たちがすごく褒めてくれて」
アメリカには、才能があると認めたらその人を応援する、背中を押すという文化がある。「近くに大学があるから、もっと勉強してみなよ」という周囲の声に押されて、杉山さんはニューヨーク市立大学のビジネス専門大学バルーク校に入学した。21歳の頃だった。

川内イオ