こうして、ダンサー志望の若者はビジネススクールの学生になった。「大学に行こうなんて考えたこともなかった」が、勉強を始めてみると、思いのほかのめり込んだ。最初の2年間はVPレコードの本社で働きながら学校に通い、3年目からは「大学で勉強したことをもっと活かしたい」と、世界4大会計事務所のひとつ、KPMGでインターンを始めた。
日本でインターンというとお客様扱いでお手伝い程度のイメージがあるけど、アメリカでは誰もお世話してくれない。自ら「何かお手伝いしますか」とアプローチして、必要があれば仕事が与えられる。もちろん、使えないインターンは即サヨウナラ。
負けん気の強い杉山さんは、がむしゃらに働いた。フルタイムの社員と同じくらい仕事をして、24時間オープンしている大学の図書館で寝て、朝から大学の授業を受けた。このとき、日本人の強みに気づいた。
「なんでもやります精神だったから、仕事以外にもみんなのディナーを注文したりしていましたよ。チームとして働くから、こいつと一緒のチームで働きたいなって思われるのが一番でしょう。そういうとき、日本人のちょっとした気遣いって大事なんです」
卒業したらKPMGで働きたいと思っていた杉山さんは、全力で周囲に気を配った。しかし同時に、思いっきり自己主張した。
「大きい会社なんで、基本的に全て与えられたものを使うんです。でも効率が悪い部分もあって、もっとこうすればいいんじゃないの? という話をよくしていました。自分でエクセルをプログラミングして、使いやすいようにシステムを変えたり。だから生意気なやつだなと思われていましたけど、それでみんながいい方向にいけばいいと思ってました」
アメリカでは、ビジネスの現場で存在感なき者はそこにいないのと同じ、という。杉山さんは、よっぽど存在感があったのだろう。KPMGで2年間インターンした後、晴れてフルタイムの正社員として採用された。

川内イオ