アメリカに帰って周りの友達に話をすると、100人中100人が「勝算ない」と呆れるか、笑った。馬鹿にされればされるほど、やる気がわいてきた。
「世界でも、自分で豆を作って焙煎して、挽きたてのものを瓶に詰めて売ってる人って多分いないでしょう? それがいいなって思ったし、それをサポートしてくれる世界一の遠州小落花っていう存在がある。アメリカっていう大きなマーケットもある。だから、これが絶対にダメになるはずない、失敗するはずがない!って思っていましたね(笑)」
2013年の初夏、会社を辞めて浜松に戻った杉山さんは、近所の人から借りた60坪の農地で種をまいた。農業の知識など皆無だったから、youtubeや書籍を参考に見よう見まねでスタートしたが、絶対に譲れないこだわりがあった。
目指したのは完全無農薬、完全無添加のピーナッツバターを作ること。ナチュラル思考というわけではなく、アメリカ式に合理的に良い豆を作るためにどうするか、を考えた末にたどり着いた答えだった。
浜松は11月頃に「遠州のからっ風」という強風が吹く。その風に当てて天日干しをするためには、時期を合わせて収穫しなくてはならないのだが、化学肥料を与えると成長が早まるためにタイミングがずれる。早く収穫して保管しておくと、傷んでしまうのだ。
また、浜松は砂の多い地盤のため、化学肥料をあげたとしても土にとどまらずにすり抜けてしまう。それなら「土をしっかり作って、その土を活かして栽培しよう」というのが答えだった。

川内イオ