未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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幻の落花生をピーナッツバターに!

NutsによるNutsのための物語

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.93 |25 June 2017
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#6イチから土を作る

自然の肥料を与えて肥沃になった農地は、厚手の絨毯のようにフカフカ

 アメリカに帰って周りの友達に話をすると、100人中100人が「勝算ない」と呆れるか、笑った。馬鹿にされればされるほど、やる気がわいてきた。

「世界でも、自分で豆を作って焙煎して、挽きたてのものを瓶に詰めて売ってる人って多分いないでしょう? それがいいなって思ったし、それをサポートしてくれる世界一の遠州小落花っていう存在がある。アメリカっていう大きなマーケットもある。だから、これが絶対にダメになるはずない、失敗するはずがない!って思っていましたね(笑)」

 2013年の初夏、会社を辞めて浜松に戻った杉山さんは、近所の人から借りた60坪の農地で種をまいた。農業の知識など皆無だったから、youtubeや書籍を参考に見よう見まねでスタートしたが、絶対に譲れないこだわりがあった。

 目指したのは完全無農薬、完全無添加のピーナッツバターを作ること。ナチュラル思考というわけではなく、アメリカ式に合理的に良い豆を作るためにどうするか、を考えた末にたどり着いた答えだった。

 浜松は11月頃に「遠州のからっ風」という強風が吹く。その風に当てて天日干しをするためには、時期を合わせて収穫しなくてはならないのだが、化学肥料を与えると成長が早まるためにタイミングがずれる。早く収穫して保管しておくと、傷んでしまうのだ。

 また、浜松は砂の多い地盤のため、化学肥料をあげたとしても土にとどまらずにすり抜けてしまう。それなら「土をしっかり作って、その土を活かして栽培しよう」というのが答えだった。

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未知の細道 No.93

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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