未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
93

幻の落花生をピーナッツバターに!

NutsによるNutsのための物語

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.93 |25 June 2017
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#7雑草との終わりなき格闘

一株、一株丁寧に健康状態を確かめつつ、雑草を抜く

 それでは、どう土を作るのか。参考にしたのは、化学肥料などない1904年に世界一に輝いた当時の生産者の手法だった。

「お米の農家さんからワラと米ぬかをもらってきて、浜名湖からモクという海草と牡蠣殻をいただいてくる。モクヤはミネラルとマグネシウムが豊富で、昔は肥料になっていたんです。これを海草、わら、米ぬか、海草、わら、米ぬか、って積み上げていって、寝かすんですよ。それを何回かかき回して攪拌することによって、米ぬかの菌で発酵していく。それを畑に入れてあげるんです」

 肥料を手づくりするだけでなく、農地に種を蒔いた後も手間暇のかかる道を選んだ。
 落花生の産地では、一般的に芽の周囲にビニールを張り巡らせている。そうすると地面の温度が上がって発芽も早くなるし、雑草も生えないという一石二鳥の方法だ。

 しかし、落花生の実がなる段階になるとビニールを破いで外すか、そのまま土のなかに埋めて放置するという手法がとられている。杉山さんは「破けばゴミになるし、放置すれば環境に悪いから」とビニールを敷かないことにした。

 その結果、自然の肥料で肥えた土地に生えてくる無限の雑草との格闘が始まった。杉山さんの仕事時間は、朝6時から12時までと、15時から19時まで。夏の間、この計10時間をずっと草抜きに費やしてきた。夏場の草抜きを想像し、思わず「はあ」とため息を漏らすと、杉山さんは笑った。

遠州小落花の収穫時期は秋

「多分、素人だからできたんだと思うんですよ。いろいろ知りすぎちゃってると、常識に縛られるし。確かに手間はかかりますよ。でも、はじめに簡単な方法を覚えちゃうとそれにしがみつくでしょ。最初に自分の体をしっかり使って、難しいこと、大変なことはやっておけば、だんだん慣れてきて、そのうち苦じゃなくなると思ってます」

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未知の細道 No.93

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。