出発する前に、伊豆のお遍路について遠藤さんからレクチャーを受けた。
「お寺を参拝した際、お経を納めることで頂ける御朱印があり、専用の公式納経帳というものがあります。今は読経をすると御朱印がもらえるのですが、昔は写経をしたものを納めていました。そこには寺院名、日付が記載されるのですが、明治時代に伊豆の寺院に収められたものが昭和40年代後半に見つかったんですよ。四国のお遍路と同じく、伊豆のお遍路も戦争に埋もれて衰退してしまったせいで、それまで伊豆にお遍路があったということは知られていなかったのですが、納経帳から調べを進めると、江戸時代から行われていたことがわかりました」
納経帳の発見により、伊豆でもお遍路を復興させようと「伊豆霊場振興会」が結成された。しかし、伊予鉄道のバスツアーと同じような効果的な策を打つことができず、ひっそりとその存在だけが受け継がれてきた。
伊豆の三島で生まれ育ち、今も三島で暮らす遠藤さんもお遍路の存在を知ったのは10年ほど前だというから、静岡県外ではほぼ無名。2、3年前まで、お遍路を目的に伊豆を訪ねると人は年間50人ほどだったという。

川内イオ