……ということで、僕と遠藤さんのショートトリップは、レンタサイクルのアプリをダウンロードするところから始まった。ユーザー登録などの手間は一般的なアプリと同程度で特にストレスなく終了。アプリを開き、それぞれ好きなデザインの電動自転車を選ぶ。伊豆急下田駅にあるステーションで通知された暗証番号を入れると、スマートロックが解除される仕組みだ。初めてだから少し手間取ったけど、慣れてしまえば簡単にできそうだ。
今回は、「伊豆御朱印サイクル」に掲載されている「下田コース①」を参考に、札所を巡ることにした。僕は娘を乗せる電動自転車に慣れているけど、遠藤さんは電動自転車の乗るのが初めてということで、漕ぎ出してすぐに「おお! これはすごい!」と電動自転車の実力に大興奮。そうそう、日本の電動自転車のサポートって本当に自然で違和感ないんだよな。
遠藤さんの案内で、まずは第44札番の広台寺へ。この日は、暑くもなく、寒くもなく、湿気もない、鼻歌を歌いたくなる陽気で、自転車をこいでいるとめちゃくちゃ気持ちいい。自転車も快調で、およそ3キロの道のりを10分ほどで走り、広台寺に到着。
「隠れた花の名所」(伊豆下田観光協会公式)と紹介されている広台寺は観光客がおらず、とても静かで、庭の植物が美しいお寺だった。遠藤さんも「ここ、好きなんですよ、落ち着きますよね」と笑顔。
このお寺を検索すると【伊豆急行線「蓮台寺駅」より約1.3km(23分程度)】と書いてある。よほど関心がなければ、ここまでくる観光客はいないのだろう。だからこそ地元に密着したような、落ち着いた静けさが保たれているのだ。
観光地化されていないお寺は、見どころや由来がわかりやすいところに記されてないことが多い。広台寺もそれがなくて残念だなと思っていたら、遠藤さんがスマホを見せてくれた。遠藤さんは「伊豆88遍路」というアプリも作っていていろいろ便利な機能がついているのだけど、88の寺院の由緒や見どころが書かれているのだ。
それによると、広台寺は【1854(安政元)年に近隣が大津波に襲われた際、下田に滞在していたロシアのプチャーチン提督と幕府の勘定奉行川路聖謨が避難していました】とある。プチャーチン提督のことは知らないけど、へー、江戸時代にロシアの提督がここに避難したのか!と過去の歴史に思いをはせるのも楽しい。

川内イオ