未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「日本一」の称号を受け継ぐ茶師の挑戦

究極の茶葉と秘伝の園

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.115 |10 JUNE 2018
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#3「シングルオリジン」の先駆者

安倍川をどんどん遡っていったところに東頭の茶園がある。

 この現状に対して、日本茶の可能性を拡げるためにブレケルさんは「シングルオリジン」を提唱している。これは近年のコーヒーの「サードウェーブ」と言われる流れのなかで知られるようになった言葉で、ひとつの産地、ひとつの農園で作られた単一品種を指す。

 もともとコーヒー豆も日本茶と似ていて、大量生産、安価提供のために、産地や品質とは関係なく豆の銘柄ごとに混ぜられて出荷されていた。しかしこのシステムでは仕入れ側主導の価格勝負になって産地が疲弊してしまう。そこでアメリカの独立系コーヒーショップが質の良いコーヒー豆を育てている産地、生産者にスポットライトを当て、その質に見合った対価で仕入れをするという取り組みを始めたのだ。この動きがサードウェーブ。

 そして、丁寧な仕事をしているひとつの農園で作られたその豆が「シングルオリジン」で、サードウェーブの浸透によって、日本でもシングルオリジンのコーヒーを楽しめるようになった。コーヒーのサードウェーブに影響を受けるようにして、ここ数年、日本茶でも他者とのブレンドではなく、自分の茶の味で勝負したいという「シングルオリジン」志向の茶師が出てきた。そのなかで誰よりも早く、なんと35年前から単一品種の日本茶「東頭」を作ってきた先駆者が小杉さんの叔父、築地勝美さんだ。

 静岡駅から車でおよそ90分。安倍川の上流、標高800メートルという茶樹を育てるには限界に近い高度の山間で茶園を始めたのは小杉さんの祖父、築地郁美さん。そして、東頭を「日本一の日本茶」として世に知らしめたのが、築地郁美さんの息子、築地勝美さんだった。

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未知の細道 No.115

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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