この現状に対して、日本茶の可能性を拡げるためにブレケルさんは「シングルオリジン」を提唱している。これは近年のコーヒーの「サードウェーブ」と言われる流れのなかで知られるようになった言葉で、ひとつの産地、ひとつの農園で作られた単一品種を指す。
もともとコーヒー豆も日本茶と似ていて、大量生産、安価提供のために、産地や品質とは関係なく豆の銘柄ごとに混ぜられて出荷されていた。しかしこのシステムでは仕入れ側主導の価格勝負になって産地が疲弊してしまう。そこでアメリカの独立系コーヒーショップが質の良いコーヒー豆を育てている産地、生産者にスポットライトを当て、その質に見合った対価で仕入れをするという取り組みを始めたのだ。この動きがサードウェーブ。
そして、丁寧な仕事をしているひとつの農園で作られたその豆が「シングルオリジン」で、サードウェーブの浸透によって、日本でもシングルオリジンのコーヒーを楽しめるようになった。コーヒーのサードウェーブに影響を受けるようにして、ここ数年、日本茶でも他者とのブレンドではなく、自分の茶の味で勝負したいという「シングルオリジン」志向の茶師が出てきた。そのなかで誰よりも早く、なんと35年前から単一品種の日本茶「東頭」を作ってきた先駆者が小杉さんの叔父、築地勝美さんだ。
静岡駅から車でおよそ90分。安倍川の上流、標高800メートルという茶樹を育てるには限界に近い高度の山間で茶園を始めたのは小杉さんの祖父、築地郁美さん。そして、東頭を「日本一の日本茶」として世に知らしめたのが、築地郁美さんの息子、築地勝美さんだった。

川内イオ