未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
115

「日本一」の称号を受け継ぐ茶師の挑戦

究極の茶葉と秘伝の園

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.115 |10 JUNE 2018
この記事をはじめから読む

#6「ほかにない」茶園

上側の細長く艶やかなのが採るべき茶葉。下側の茶葉は採らない。

 小杉さんが、比べてみてください、と2枚の葉を見せてくれた。大きいほうは摘むべき葉で、小さいほうは残される葉。明らかに葉の艶が違うことがわかった。しかし、4反(4000平米)ある茶畑で葉を選びながら摘むなんて、想像すると気が遠くなる。

 小杉さんによると、一般的には1反あたりの平均的な茶葉の収穫量は約400キロとされている。4反あれば1600キロだ。一方、東頭の収穫量は4反で500キロほどで平均の3分の1にも満たない。量ではなく、質を追求していることがわかるだろう。

小杉さんの祖母、若子さんも現役のお茶摘みさん。とても動作が速く、パッパッと採っていく。

 生葉を摘む「お茶摘みさん」たちに、大変ですよね? と声をかけると、何人かが「大変だよ!」と声をそろえた。そのなかのひとりが「一枚、一枚選びながら葉を摘む畑なんて、ほかにはないよ」と教えてくれた。

 茶園といえば、かまぼこ型に刈り込まれた茶樹がずらーっと並ぶ姿を思い浮かべる方もいるかもしれないが、東頭の木は自然の姿そのまま。これにも理由がある。

 茶園でその年に最初に摘んだ茶葉は「一番茶」「新茶」と呼ばれ、香り高く品質も良いとされる。一番茶が摘まれた後、しばらくすると再び目が伸び始める。これがある程度伸びたところで摘み取った葉を「二番茶」といい、主にドリンク原料として取引されている。同じ作業を何度か繰り返し、秋頃にシーズン最後の「秋冬番茶」が摘み取られる。この収穫作業を「摘採機」という手作業の10倍以上のスピードで葉を摘む機械で効率的に行うために、茶樹がかまぼこ型に整えられているのだ。

 東頭は、その必要がない。なぜなら、一年に一度しか葉を摘まないから。一番茶を収穫した後には、地面から20~30センチぐらいの高さまで木を切ってしまう。それからまた1年かけて、木を育てるのだ。東頭は「一番茶」のみ。だからこそ希少で、値が張るのである。
 お茶摘みさんが摘み取った生葉は、なんとも品の良い香りを放っていた。

自然のままの姿で力強く育っている東頭の茶樹。
このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.115

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。