小杉さんが、比べてみてください、と2枚の葉を見せてくれた。大きいほうは摘むべき葉で、小さいほうは残される葉。明らかに葉の艶が違うことがわかった。しかし、4反(4000平米)ある茶畑で葉を選びながら摘むなんて、想像すると気が遠くなる。
小杉さんによると、一般的には1反あたりの平均的な茶葉の収穫量は約400キロとされている。4反あれば1600キロだ。一方、東頭の収穫量は4反で500キロほどで平均の3分の1にも満たない。量ではなく、質を追求していることがわかるだろう。
生葉を摘む「お茶摘みさん」たちに、大変ですよね? と声をかけると、何人かが「大変だよ!」と声をそろえた。そのなかのひとりが「一枚、一枚選びながら葉を摘む畑なんて、ほかにはないよ」と教えてくれた。
茶園といえば、かまぼこ型に刈り込まれた茶樹がずらーっと並ぶ姿を思い浮かべる方もいるかもしれないが、東頭の木は自然の姿そのまま。これにも理由がある。
茶園でその年に最初に摘んだ茶葉は「一番茶」「新茶」と呼ばれ、香り高く品質も良いとされる。一番茶が摘まれた後、しばらくすると再び目が伸び始める。これがある程度伸びたところで摘み取った葉を「二番茶」といい、主にドリンク原料として取引されている。同じ作業を何度か繰り返し、秋頃にシーズン最後の「秋冬番茶」が摘み取られる。この収穫作業を「摘採機」という手作業の10倍以上のスピードで葉を摘む機械で効率的に行うために、茶樹がかまぼこ型に整えられているのだ。
東頭は、その必要がない。なぜなら、一年に一度しか葉を摘まないから。一番茶を収穫した後には、地面から20~30センチぐらいの高さまで木を切ってしまう。それからまた1年かけて、木を育てるのだ。東頭は「一番茶」のみ。だからこそ希少で、値が張るのである。
お茶摘みさんが摘み取った生葉は、なんとも品の良い香りを放っていた。

川内イオ