未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「日本一」の称号を受け継ぐ茶師の挑戦

究極の茶葉と秘伝の園

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.115 |25 April 2018
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#8小杉さんが茶農家を継いだ理由

子どもの頃に東頭の茶園で遊んだ記憶があるという小杉さん。

「日本一の茶師」が作り上げた茶畑を守りたい。そういう思いで、小杉さんは築地さんの後を継いだ。

「大学は農学部で、肥料や農薬に関するバイオ関係のことを学んでいました。卒業後は地元に戻って農業にかかわる仕事に就こうと思って、JAに入ったんです。でも、働き始めてしばらくした頃に、叔父の体調が悪くなって。叔父夫婦には子どもがいないこともあって、叔父は自分ができなくなったら茶畑を閉めると言っていました」

 小杉さんには、幼い時、祖父・郁美さんにおぶわれて山を登った記憶がある。モノラックにも乗ったし、茶を蒸す工場で遊んだことも憶えていた。だから、築地さんの言葉を聞いた時、「思い出の地でもあるこの茶園を残したい」という想いが沸きあがってきた。その想いが覚悟に変わり、2013年、6年勤めたJAを辞めて茶園を継いだのだった。

 JAでは営農担当で、肥料、農薬の成分や効能を茶農家に伝えて、どの時期になにをすれば病気や虫の被害が減るのかをレクチャーしていた。しかし、現場に立つといかに自分が頭でっかちだったかを痛感した。

「例えば肥料でも、収穫する1ヵ月前、2週間前にこの肥料をやれば効果があるという知識はあります。でも、その年に雨がたくさん降っていたら、肥料の成分が水で流れてしまうし、雨が降らないと肥料を溶かす溶媒がないからぜんぜん効かない。実際に現場でやることと机上論とはかけ離れていました」

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未知の細道 No.115

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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