「日本一の茶師」が作り上げた茶畑を守りたい。そういう思いで、小杉さんは築地さんの後を継いだ。
「大学は農学部で、肥料や農薬に関するバイオ関係のことを学んでいました。卒業後は地元に戻って農業にかかわる仕事に就こうと思って、JAに入ったんです。でも、働き始めてしばらくした頃に、叔父の体調が悪くなって。叔父夫婦には子どもがいないこともあって、叔父は自分ができなくなったら茶畑を閉めると言っていました」
小杉さんには、幼い時、祖父・郁美さんにおぶわれて山を登った記憶がある。モノラックにも乗ったし、茶を蒸す工場で遊んだことも憶えていた。だから、築地さんの言葉を聞いた時、「思い出の地でもあるこの茶園を残したい」という想いが沸きあがってきた。その想いが覚悟に変わり、2013年、6年勤めたJAを辞めて茶園を継いだのだった。
JAでは営農担当で、肥料、農薬の成分や効能を茶農家に伝えて、どの時期になにをすれば病気や虫の被害が減るのかをレクチャーしていた。しかし、現場に立つといかに自分が頭でっかちだったかを痛感した。
「例えば肥料でも、収穫する1ヵ月前、2週間前にこの肥料をやれば効果があるという知識はあります。でも、その年に雨がたくさん降っていたら、肥料の成分が水で流れてしまうし、雨が降らないと肥料を溶かす溶媒がないからぜんぜん効かない。実際に現場でやることと机上論とはかけ離れていました」

川内イオ