「ある参加者は、魂の受容の場だと言ってくれました」と話すのは、クルミドコーヒーのオーナー、影山知明さん。2012年に朝モヤをスタートさせて、6年半、続けてきた。
「社会のなかでは、自分に100%忠実ではいられないことって誰しもありますよね。朝モヤはそれを表現できる場であるのかもしれません。自分に対して忠実な発言をすることを受け止めてもらえる場、自分は自分でいいと思える気持ち。おしゃべりが楽しいということよりも、自分を受け止めてもらうことで自分で自分を受け止められる場という要素が強いなと思っています」
なぜ、朝モヤを始めたのか。そこには影山さんの人生の歩みも関係してくるから、振り返ろう。東大法学部を出て、外資系コンサルティングファーム、マッキンゼーに就職。絵に描いたようなエリート街道だが、現場の声よりも売り上げや利益の拡大をひたすら追求する資本主義の「ゲーム」に馴染めずに3年で退職。先輩とともに「ビジネスモデルや仕組みに投資をするのではなく、人の意志に投資する」ベンチャーキャピタルを立ち上げた。
そこで「応援したい」と思う起業家に投資を続けながらも、「サポートするだけじゃなく、いつかは自分もプレイヤーになりたい」という思いが募り、独立。西国分寺にあった母方の実家を集合住宅に建て替えるというタイミングで1階にクルミドコーヒーをつくり、店主となった。2008年のことである。
クルミドコーヒーは、いわゆるチェーン店とは真逆の発想で運営されている。スピードや価格で勝負するのではなく、あらゆる食材にこだわり、仕事に手間と時間をかけ、その価値を提供しているのだ。資本主義社会のルールでは非効率、非生産的と指摘されかねないが、このビジネスモデルは「きれいごとでも気持ちを込めてまっとうに仕事をすれば経済的にも成り立つはず」という影山さんの仮説に基づいている。
西国分寺の駅前にチェーン店がいくつもあるなかで、1杯のコーヒーが600円を超えるカフェの挑戦。最初の数年は赤字が続いたが、それでも毎年お客さんの数が増え続け、5年で黒字化。その後も右肩上がりの成長を続け、今では1日に120人ものお客さんが訪れる人気店になった。

川内イオ