
これができるのは、遠野という町の特性もあるだろう。袴田さんは「もともと街道が7つ通っている宿場町だったせいか、遠野の人はすごくオープンです」と話す。この気質があるから、よそ者3人組の遠野醸造メンバーを応援してくれたのかもしれない。
真昼間に袴田さんから注いでもらったビールを飲み干し、町に出た。ほろ酔い気分で、すぐ近くにあった「遠野旅の産地直売所」に入った。そこは最近オープンしたばかりだというこのお店は、遠野のさまざまなお店や人とつながっていて、いわゆる観光名所巡りとは違うローカル体験を販売していた。
へー、面白いなあと話を聞いていたら、店番をしていた若い女の子が唐突に「ところでお兄さん、ゴーヤいる?」。一瞬戸惑ったけど、ゴーヤは好きだ。「いただきます」と答えたら、素敵な笑顔で「カボチャは好き?」と聞かれた。「はい、好きです」と言うと、どういう流れか、ゴーヤ2本とカボチャひとつをもらうことになった。お店に足を踏み入れてから、3分ぐらいの出来事である。
「お昼は食べたの?」
「いや、まだです」
「ジンギスカン好き?」
「はい、好きです」
「おすすめあるよ。ジンギスカン丼」
「ジンギスカン丼!?」
「食べてみたい?」
「はい」
「じゃあ、連れて行ってあげる。行こう!」
そういうと、女の子はお店にいた別の女性に「ちょっと行ってきます」と言って、お店を出た。すごいスピード感に驚きながらも、あとをついていく。
歩いて1分ほど、「ここ!」と案内されたのは、「お休処 やおちゅう」。一緒にランチを食べるのかと思ったら、女の子は「それじゃ! 私はお弁当あるから」と自分のお店に戻っていった。袴田さんから「遠野の人はすごくオープン」と聞いたばかりだったから、「間違いない」と実感した。
実は、遠野の食の名物はジンギスカン。1930年ごろから羊肉を食べるようになり、今では「焼肉」=「ジンギスカン」レベルに根付いているそう。だからもちろん、お店で出しているジンギスカンのレベルは高い。ジンギスカンの丼は初めて食べたけど、これが東京にあったらヒット間違いなしの絶品。気さくな店主と話をしながら、こう思った。
ああ、遠野醸造のクラフトビールとコラボしてほしい。

