
2015年10月に仕事を辞め、横浜にあるパブを併設したブルワリーに転職。ここでビール作りから学ぶつもりだったが、入社して半年後、肝心のビールの醸造部門が移転してしまった。これでは「自分で作って、自分で届ける」ことができない。
さあ、どうしようかと悩んでいた時に、遠野市が地域資源と起業家を掛け合わせて新たな事業やコミュニティの創出をめざす「ローカルベンチャースクール事業」の募集を行っていることを知った。その一つに遠野の地域資源であるホップを活用して、地域課題を解決するプロジェクトがあった。遠野市の地域おこし協力隊として3年間、所得補償を受けながら起業を目指すもので、袴田さんはすぐに応募を決めた。
「工場なんてものすごく初期投資かかるし、素人がイチから作るなんて無理だろうと思っていたんです。でも、このプロジェクト自体が面白そうだし、自分でやるっていう選択肢もありだなと思いました」
面接を経て、プロジェクトメンバーとして採用されたのは袴田さんと、元大手企業の開発部門で研究職に就いていた太田睦さんのふたり。さらにNext Commonsの創業メンバーである田村淳一さんも加わり、3人で「ホップを使ったビジネス」、ブルワリーを立ち上げることになった。
当初のスケジュールでは、最初の半年間はビール作りのイロハを学ぶ研修期間、その後すぐ創業準備に入り、3年目には実際に起業するというスケジュール。研修は2016年の秋にスタートした。1日だけの見学なども含めると、およそ30カ所のブルワリーを訪問した。自分たちでアポを取り、「遠野でビール作りを始める」と話すと、多くのブルワリーが歓迎してくれた。
「感銘を受けたのは、自社でラボを持って、クオリティ第一で科学的に作っていた伊勢にあるブルワリーです。2週間ほど勉強させてもらって、衛生管理から身体で覚えました。逗子のヨロッコビールさんもすごくクオリティが高いし、地域の方から愛されていて、ビールがコミュニティの中心になっていて、すごくいいなと思いましたね」
クラフトブルワリーといっても、作り方、生産量、売り方などはすべて異なる。そのなかで、設備投資や水道光熱費、原材料費がどれぐらいかかるのかなど細かくヒアリングして、「自分たちにフィットするやり方」を見極め、定めるうえで貴重な体験になった。
「ローカルで勝負するということは、中途半端なビールを出したら絶対に売れません。クオリティは最重要です。ただ、そんなに資本力もないなかで、コストを抑えつつ、クオリティを維持するためにはどこが一番ポイントなのかを学ばせてもらいました」