
山梨県甲州市
これまで取材以外はあまり旅らしい旅をしてこなかった私が、ここ数年で何度も通っている場所。それが山梨県だ。親の田舎があるわけでもなく、ほんの3年前に初めて降り立った。それが、今では家族や友達を連れて年に数回訪れるようになるとは。私にとって、山梨が「帰りたい田舎」になるまでの3年間を振り返る。
最寄りのICから【E20】中央自動車道「勝沼IC」を下車
最寄りのICから【E20】中央自動車道「勝沼IC」を下車
「自分の内側に情熱を溜め込み、ある日突然、爆発するように動き出す」
牡牛座、O型、左利き。私を形作るどの要素がそうさせているのかわからないけれど、どの占いにも、よくこんなふうに書いてある。そう言われて過去の人生を振り返ると、まあ、たしかに突然の行動で人を驚かせてきたかもしれない。
初めて山梨に行ったときもそうだった。4月のある晴れた夜。仕事を終えたその足で新宿駅から「かいじ」に乗り込んで、23時半頃に山梨県笛吹市にある石和温泉駅に降り立った。新宿の昼間のように明るい景色から一変、夜らしい静けさに「東京から出たのだ」と興奮したのを、今でも覚えている。そんなに夜遅くに山梨に乗り込んだ理由、それは翌日の朝、ある人に会いに行くためだった。
ことの発端は、その年の1月。当時働いていた青果販売店に、山梨でミニトマトを作る飯嶋俊彦さんがやってきた。何のためにやってきたのか、下っ端の私にはよくわからなかったけれど、ミニトマトを試食させてもらった瞬間おどろいた。
甘い! 厚めの皮は噛むとプチッと弾けるのにやわらかく、今まで食べたどのトマトよりも酸味がない。さらに、私が思わず笑ってしまったのは、飯嶋さんが持ってきた「ミニトマトのギフト」だ。およそ70個ものミニトマトが、丁寧に向きまで揃えられて化粧箱に並んでいた。
「ギフトの注文が入ったら、夜中にひとりで並べてます」
飯嶋さんはよく喋る人ではなくて、ずっと硬い表情をしていた。でも、「ギフトはね、けっこう喜ばれるのでうれしくて」と話す顔はやわらかく、あ、この人は本当に好きでミニトマトを並べているんだな、とわかった。
その日はほとんど話すことができなかったけれど、私のなかで「もっと飯嶋さんの話を聞いてみたい」という思いはしっかりと残った。当時、私は野菜を販売しながらブログに生産者の取材記事を載せていたので、飯嶋さんの話を書きたいと思ったのだ。
後日、飯嶋さんのミニトマトが店頭に並ぶことになり、本当に飛ぶように売れた。定期的な仕入れの連絡をするたびに「飯嶋さんの話が聞いてみたいな」と積もりに積もった気持ちは、ついに3ヶ月後、爆発した。
「飯嶋さん! 山梨まで会いに行ってもいいですか?」
飯嶋さんからすれば取引先のいち従業員に過ぎない私が送った、距離感のおかしい個人メッセージ。これが、私と山梨の出会いだった。