
取材の日をきっかけに、私と山梨の距離はぐっと縮まった。乗り慣れた特急電車「かいじ」や「あずさ」に乗り込んで、飯嶋さんに会いに行く。ときどき、マルシェや朝市での店番をお手伝いをした。「お手伝い」と言いながら、ただマルシェを楽しんでいたけれど。
山梨にはたくさんのマルシェがある。なかでも活気があったのが、甲州市で毎月第一日曜日に開かれる『かつぬま朝市』。住民が始めた小さな朝市がどんどん人気になり、当時は山梨県内外から、多いときには200軒を超える出店者が集まっていた。(現在は、少し規模を縮小し、JR塩山駅近くの「塩むすび広場」にお引越し)
この朝市を目当てに、早朝からたくさんの車が列をなす。私も当日の朝、駅からタクシーに乗り込むと「朝市かい? 今から行くとちょっと並ぶかもねえ」と言われて、運転手さんとお喋りしながら列に並んだことがある。
見渡す限りテント、テント、テント……。野菜やフルーツに限らず、ジャムや味噌などの加工品、手作り雑貨や洋服、骨董品など幅広いものが並んでいた。朝市の後半になると、ちらほら「売り切れ」「完売」の文字が並ぶ。早い者勝ちなのだ。「やっぱり、あれ欲しかったな」と広い会場を戻ったら、もう売り切れていた! なんてことも。一期一会の出会いを大切に、ビビッときたら買うしかない。
養蜂する消しゴムはんこ屋さん、濃厚ジュースを売るぶどう農家さん、木材をその場で加工する作家さん、焼き菓子とコーヒーを売る国際カップルなど……。東京ではなかなか出会えないような人々や商品に、ある程度中身があったはずの私の財布はすぐに空になった。


飯嶋さんはかつぬま朝市の常連出店者。他の出店者さんとも仲良しで、店番している私を呼んでは「この人、私の記事を書いてくれたライターさん」と紹介してくれた。「あまり表に出るのは好きじゃない」と言いながら、私が飯嶋さんについて書いたブログ記事を、わざわざ印刷して周りに配ってくれていたのだ。
「おー、新商品、出たんだ」「この前のあれ、すごくよかったよ」
飯嶋さんと朝市をまわっていると、毎月顔を合わせるメンバー同士や常連のお客さんとの関係性がよく見える。「また帰って来たいな」と思える親しみがそこにはあって、財布と反比例するように私のかばんと心はいっぱいになっていった。