未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
167

『旅の思い出』編 過去から甦る建物と生き続けるアートをめぐる旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.167 |11 August 2020
この記事をはじめから読む

#2廃校まるごとアート作品!《最後の教室》

国立新美術館で行われた「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」展の様子。

最初に紹介するのは、新潟県越後妻有にある《最後の教室》。
2000年から始まった「大地の芸術祭」で制作されたもので、なんと「小学校」がまるごと作品だ。制作したのはフランス人の現代美術界の巨匠・クリスチャン・ボルタンスキーとジャン・カルマン。ボルタンスキーは、人間の生と死をテーマにした重厚な作品群で有名だ。

ダイナミックなインスタレーション作品で知られるボルタンスギーだが、この《最後の教室》のスケールは、なかでも群を抜いている。強調したいのは、「廃校」のなかに作品があるのではなく、本当に廃校がまるまる一つのインスタレーション作品として成立していることである。

私が初めて《最後の教室》を訪れたのは、2015年のこと。まだ赤ちゃんだった娘を連れ、友人数人と一緒に足を踏み入れた。

作品の始まりは、かつての体育館。薄暗い巨大空間にはゴーゴーという機械音がこだまし、妙に人工的なリズムで風が吹いている。そして、空間に充満するのは藁の香り。目をこらしてよく見ると、無数の扇風機が一心不乱に風を吹かしている。
なんだろう……ここは……。
その圧倒するように濃厚な雰囲気は、「最後の教室」というタイトルが持つ甘ったるいノスタルジーを完膚なきまでに吹っ飛ばした。

  • 作品《最後の教室》の内部。かつての学校がそのまま残っている。
  • 暗い中にうっすらとたくさんの扇風機が見える。実際には光が見えて美しい空間だ。
このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。