最初に紹介するのは、新潟県越後妻有にある《最後の教室》。
2000年から始まった「大地の芸術祭」で制作されたもので、なんと「小学校」がまるごと作品だ。制作したのはフランス人の現代美術界の巨匠・クリスチャン・ボルタンスキーとジャン・カルマン。ボルタンスキーは、人間の生と死をテーマにした重厚な作品群で有名だ。
ダイナミックなインスタレーション作品で知られるボルタンスギーだが、この《最後の教室》のスケールは、なかでも群を抜いている。強調したいのは、「廃校」のなかに作品があるのではなく、本当に廃校がまるまる一つのインスタレーション作品として成立していることである。
私が初めて《最後の教室》を訪れたのは、2015年のこと。まだ赤ちゃんだった娘を連れ、友人数人と一緒に足を踏み入れた。
作品の始まりは、かつての体育館。薄暗い巨大空間にはゴーゴーという機械音がこだまし、妙に人工的なリズムで風が吹いている。そして、空間に充満するのは藁の香り。目をこらしてよく見ると、無数の扇風機が一心不乱に風を吹かしている。
なんだろう……ここは……。
その圧倒するように濃厚な雰囲気は、「最後の教室」というタイトルが持つ甘ったるいノスタルジーを完膚なきまでに吹っ飛ばした。

