最後に紹介するのは、《漂流郵便局》。瀬戸内海の小島にある現代美術作品だ。
空き家になっていた元郵便局をそのまままるごと利用した場所で、届け先のない手紙を預かってくれるというなんとも不思議な郵便局である。
漂流郵便局の存在は、たまたま新聞記事で知った。
届け先のない手紙とはどんなものだろう。どんな人がそこに手紙を送っているのだろう。気になってしまい、ある日高松から海上タクシーを掴まえ、粟島に向かった。
ほんの10分ほどで、島影がぐんぐんと近づいてきた。島はもう目の前だ。
桟橋に着くと、たくさんの人が「いらっしゃい!」と出迎えてくれたので驚いた。ちょうど瀬戸内国際芸術祭が開催中だったので、島の人たちが船がつくたびに歓迎してくれるようだ。
わあ、来てよかった、とその歓待ぶりにほっこりしながら、小雨のなかを歩いた。車も走っていない静かな集落で、懐かしい商店や木造の家並みを通り過ぎると、「漂流郵便局」は静かに佇んでいた。
外観は、まさに昭和の懐かしい郵便局そのものだった。