未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
170

『旅の思い出』編 「地域のアートセンター」発 美学を学ぶ仲間と論文の世界へ、旅をする

文= 松本美枝子
写真= 山野井咲里(表記のないものすべて)・松本美枝子ほか
未知の細道 No.170 |25 September 2020
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#3読書会をたちあげる

舘かほるさん

舘かほるさんは、神戸にある大学院を去年の春に卒業して故郷の水戸市に戻り、これから在野で研究活動を続けようとしている、28歳の自治体職員だ。

私は舘さんが高校生の頃から良く知っている。私の写真のワークショップに参加していたからだ。彼女は年の離れた友達であり、最初に写真を教えた、教え子のようなものでもある。高校卒業後は、写真を学ぶために関西の美術大学に進学し、その後は大学院で写真論の研究をしてきた。その舘さんから「地元に帰って、働きながら写真の研究を続ける」と聞いたとき、私は嬉しかった。

帰ってきてすぐに舘さんは「美枝子さん、二人で美学のクリティカル・リーディングをやりませんか」と持ちかけてきた。舘さんと一緒に、本腰を入れて勉強することは良いことだなと思い、二つ返事で引き受けた。

しかし、ふと「待てよ……。どうせやるなら、これをメゾン・ケンポクのプログラムにできないだろうか?」と、私は思った。私たちと一緒に論文を読みたい人を募集し、メゾン・ケンポクでのオープンな読書会として、地域の人たちに声をかけるのはどうだろうか? と舘さんに相談した。

もし実現したら、地域のアートセンター「メゾン・ケンポク」の中心的な活動になるだろう。そしてこれは言わなかったけど、その活動がいつか舘さんの研究や、私の作品制作の支えになることもあるかもしれない。心の中で、そんなこともちょっと思っていた。

しかし「参加者を募集するのはいいけれど、美学の論文を読む会に、地域の人が集まりますかねえ……」と、舘さんは思案顔になった。

冷静に考えればそうだ。小説や啓蒙書の読書会ならともかく「美学の基礎論文を読む」という研究会に人がくるのだろうか? しかもここは学生や研究者が住んでいるような都市部ではない。地域おこし協力隊を設置する過疎地域である。そして、そもそも学府や研究機関以外で、日常的に論文を読みたい人って、いるのだろうか……。

しかし、ダメ元でSNS上に情報を流すことにした。もし誰も来なかったら、予定どおり二人で論文を読めばいいや……。それくらいの気持ちだった。

すると、である! 情報を出したその日のうちに、さっそく二人の申し込みがあったのだ。それが海野輝雄さんと、根本聡子さんだった。

いやー、世の中にはほんとに奇特な人たちがいるもんだ……と、自ら募集しておきながら、妙に感心し、そして心の底から嬉しかった。「美学を勉強したい」と考えている人が、私たちのすぐ近くにいた! ということに。

こうして二週に一度、よく知らない者同士がメゾン・ケンポクに集まり、論文を読む日々が始まったのである。それは苦しくて楽しい勉強の日々の幕開けでもあった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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