未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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『旅の思い出』編 「地域のアートセンター」発 美学を学ぶ仲間と論文の世界へ、旅をする

文= 松本美枝子
写真= 山野井咲里(表記のないものすべて)・松本美枝子ほか
未知の細道 No.170 |25 September 2020
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#6神戸に行こう!

しかし、どうせ「メゾン・ケンポクの読書会」として神戸に行くなら、ただ単なる史跡の調査旅行では、ちと、もったいない。もう一工夫、この勉強会の積み重ねを、面白い方法で昇華させる旅はないだろうか、と私は一人で頭をひねっていた。そしてひとつ、アイディアを思いついたのだった。

大阪で、知り合いの音楽家たちが企画している「PARADE」と言うライブイベントがある。音楽家やアーティストが、鑑賞者と一緒に街を歩きながら、なんらかのパフォーマンスをするというものだ。
この「PARADE」に、コレクティブ(集合体という意味。美術用語で〈アーティスト集団〉という意味でも使われる)ということで、私たちも出演者として参加させてもらえないだろうか。しかも場所は、神戸三宮で! もちろん私たちがコレクティブとして行うパフォーマンスは「読書会」とそれに関連する資料「戦前の神戸の外国人コミュニティの跡地」の視察だ。

まったくの思いつきだけど、机上の読書会から飛び出し、知らない人たちのなかで、自分たちの学びをアウトプットしたら、この読書会はもっと面白い集団になっていくかもしれない。そんな予感もあった。

みんなに相談すると「松本さんの言っていることは、なんだか全然よくわからないけど、すごく面白そうだから、みんなで神戸に行ってみよう」と、海野さんと聡子さんは笑っていってくれた。

またもやダメ元で、「PARADE」を企画する中田粥さんと米子匡司さんにお願いしてみたところ、快く受け入れてもらった。さらに神戸在住の音楽家、江崎將史さんをゲストとして、ライブに呼ぶということだった。何の実績もない即席コレクティブの持ち込み企画をOKしてくれた上に、すてきなゲストと一緒にやらせてもらえるということも、とてもありがたかった。

そして舘さんが公開読書会のための論文を選んだ。ユベルマンの論文のなかで、結論に向かうための足がかりとして引用されていた「想像力」についてのサルトルのテクストを読むことにしたのだ。このテクストを基に、ユベルマンと反対派の議論のポイントを考えるレジュメを舘さんがつくることになり、それを異人館街の「どこか」で読書会をすることにした。

神戸の異人館街(撮影:海野輝雄)

さて茨城空港からは神戸行きの便が1日3便(注:10月25日以降は1日2便)出ている。年齢だけでなく、仕事も家庭環境もバラバラな私たち。当然、旅に行ける日数もそれぞれちがう。なので当日までに間に合うように、現地集合することにした。泊まる場所も実家や友人の家、またはホテルなど、全員バラバラだ。

少し寒くなってきた秋の終わり。いよいよ当日の朝だ。私たちは阪急神戸三宮駅で落ち合った。いつもの静かな常陸太田から遠く離れて、大都会の真ん中で、この4人が待ち合わせするなんて、なんだか変な気分だ。みんなもちょっとおかしいのだろう、誰もがニヤニヤしている。

「PARADE」の前に、お昼を食べながら最終打ち合わせしようということになり、駅の地下街の中華料理店に入った。これから初めてパフォーマンスをやることに緊張している私と海野さんをよそに、聡子さんと舘さんは、住み慣れた神戸の街に、こうして帰ってきていることがうれしいのだろう。さっと二人で紹興酒を注文して、乾杯していた。

撮影:海野輝雄
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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