未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
170

『旅の思い出』編 「地域のアートセンター」発 美学を学ぶ仲間と論文の世界へ、旅をする

文= 松本美枝子
写真= 山野井咲里(表記のないものすべて)・松本美枝子ほか
未知の細道 No.170 |25 September 2020
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#7神戸の異人館街を歩く

音楽家・江崎將史さんの語りから神戸の町を歩き始める(撮影:松本美枝子)

「PARADE」の集合場所へ移動する。江崎さんや中田さん、米子さんの三人の音楽家たち、参加者の人たちもポツポツと集まり始めた。この「PARADE」を楽しみに、何回も参加している人もいるという。参加者の中には、同じ茨城県北地域おこしの協力隊員の日坂奈央さんや、聡子さんの娘さん、以千子ちゃんもいた。

実は日坂さんも兵庫県出身なので、このイベントに合わせて、里帰りしてくれたのだ。そして以千子ちゃんは実家の常陸太田を離れ、神戸の専門学校に通っている。今日はお母さんが、地元の神戸で仲間たちといったい、どんなことをやるのか、見に来てくれたのだった。

15名ほどの団体は、駅を離れて神戸の街へと歩き出した。この「PARADE」の特徴は街をみんなで一緒に歩くこと、そして参加者に配られるラジオとイヤホン。ラジオの電波を通して音楽家たちのパフォーマンスを歩きながら聴くのだ。音楽家たちは歩きながら参加者に語りかけたり、時には街を流れる川のなかでライブを行ったり……と、予想外の行為で神戸の街を進んで行く。

撮影:松本美枝子

さて、いよいよ私たちの番になった。まずは読書会でユベルマンの論文を勉強していること、それが神戸への旅とどうつながるのかを交代で話しながら、とある場所に向かう。まとまらない語りだったが、それでも参加者たちは、イヤホンを通して神妙な顔をして聞いてくれている。

  • ドイツ人クラブがかつてあった場所。(撮影:海野輝雄)
  • ドイツ人クラブがあったことを示すプレート(撮影:舘かほる)

ほどなくしてたどり着いたのは、ある会社の敷地の一角。礎石には「クラブ・コンコルディア」と書かれた金属のプレートがはめ込まれている。今はアスファルトと近代的なビルしかないけれど、昔ここに、大きなドイツ人クラブがあったことを示すもの。事前に聡子さんが調べておいてくれたのだ。プレートの字を目で追いながら、75年前にあった世界を想像してみる。

さらに高級住宅街を歩く。世界各地の外国人が立てた珍しい建物がいくつも現れる。日本じゃないみたい。神戸ならではの風景だ。

ユダヤ教の教会「シナゴーグ」(撮影:舘かほる)

だいぶ歩いて西日が陰ってきた頃、ある建物の前にたどり着いた。ここが日本でふたつしかない、ユダヤ教の教会「シナゴーグ」のひとつだ。窓は開け放たれ、誰もいない教会の中が見える。ここを目指して、遠くヨーロッパから迫害を逃れてきた人々も、かつていたのであろうか。

神戸に住む江崎さんが「お願いして都合が合えば、たしか中に入って見学することもできるんですよ」と教えてくれた。「ええー、そうなんだ! 事前にお願いしてみればよかった!」教徒以外は入れないと、何かに書いてあったのを、私は鵜呑みにしていたのであった……。
しかし江崎さんからそう聞くと、なんとなく教会の向こうからアットホームな雰囲気が漂ってくるような気がした。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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