
「PARADE」の集合場所へ移動する。江崎さんや中田さん、米子さんの三人の音楽家たち、参加者の人たちもポツポツと集まり始めた。この「PARADE」を楽しみに、何回も参加している人もいるという。参加者の中には、同じ茨城県北地域おこしの協力隊員の日坂奈央さんや、聡子さんの娘さん、以千子ちゃんもいた。
実は日坂さんも兵庫県出身なので、このイベントに合わせて、里帰りしてくれたのだ。そして以千子ちゃんは実家の常陸太田を離れ、神戸の専門学校に通っている。今日はお母さんが、地元の神戸で仲間たちといったい、どんなことをやるのか、見に来てくれたのだった。
15名ほどの団体は、駅を離れて神戸の街へと歩き出した。この「PARADE」の特徴は街をみんなで一緒に歩くこと、そして参加者に配られるラジオとイヤホン。ラジオの電波を通して音楽家たちのパフォーマンスを歩きながら聴くのだ。音楽家たちは歩きながら参加者に語りかけたり、時には街を流れる川のなかでライブを行ったり……と、予想外の行為で神戸の街を進んで行く。
さて、いよいよ私たちの番になった。まずは読書会でユベルマンの論文を勉強していること、それが神戸への旅とどうつながるのかを交代で話しながら、とある場所に向かう。まとまらない語りだったが、それでも参加者たちは、イヤホンを通して神妙な顔をして聞いてくれている。


ほどなくしてたどり着いたのは、ある会社の敷地の一角。礎石には「クラブ・コンコルディア」と書かれた金属のプレートがはめ込まれている。今はアスファルトと近代的なビルしかないけれど、昔ここに、大きなドイツ人クラブがあったことを示すもの。事前に聡子さんが調べておいてくれたのだ。プレートの字を目で追いながら、75年前にあった世界を想像してみる。
さらに高級住宅街を歩く。世界各地の外国人が立てた珍しい建物がいくつも現れる。日本じゃないみたい。神戸ならではの風景だ。
だいぶ歩いて西日が陰ってきた頃、ある建物の前にたどり着いた。ここが日本でふたつしかない、ユダヤ教の教会「シナゴーグ」のひとつだ。窓は開け放たれ、誰もいない教会の中が見える。ここを目指して、遠くヨーロッパから迫害を逃れてきた人々も、かつていたのであろうか。
神戸に住む江崎さんが「お願いして都合が合えば、たしか中に入って見学することもできるんですよ」と教えてくれた。「ええー、そうなんだ! 事前にお願いしてみればよかった!」教徒以外は入れないと、何かに書いてあったのを、私は鵜呑みにしていたのであった……。
しかし江崎さんからそう聞くと、なんとなく教会の向こうからアットホームな雰囲気が漂ってくるような気がした。