未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
170

『旅の思い出』編 「地域のアートセンター」発 美学を学ぶ仲間と論文の世界へ、旅をする

文= 松本美枝子
写真= 山野井咲里(表記のないものすべて)・松本美枝子ほか
未知の細道 No.170 |25 September 2020
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#8まちのなかで読書会

サルトルとユベルマンのテクストの読書会(撮影:江崎將史)

教会から少し歩いたところに、びっくりするくらい小さな公園があった。地図で調べた通りだ。そこに適当に腰掛けて、公開の読書会が始まった。

公園を利用していた人たちは「なんだなんだ?」という感じで眺めていたが、やがて、そこまでへんな集団ではなさそうだ……、と思ったのだろう。都会の人特有の、他人を適当にやりすごしてくれている雰囲気が伝わってきて、それが心地よかった。

さて関連資料として選んだサルトルのテクストは、人間の「想像力」の特質を理論的に考えたものだ。サルトルの想像の概念はこうだ。心の中で想像することを、単なる像(いわゆる「イメージ」)と捉えずに、対象そのものを想像する「行為」だと見なす。

これをユベルマンのテクストに当てはめると、あの「4枚の写真」は単なるイメージではなく「行為」として見てみなければならない。そうすれば強制収容所での出来事を、より深く想像することができるだろう。ユベルマンはこのようにサルトルの想像力の概念をひきながら、「4枚の写真」を単なる限定的なイメージと見なす批判者への反論を展開しているのだろう、と舘さんはまとめた。残りの3人は舘さんの発表に相槌ばかりで頼りなく、深く議論を展開するまでにはいかなかったけれど、参加者のみんなは最後まで真剣に読書会の発表を聞いてくれたのであった。

跡地視察と公開読書会が長引いたせいで、中田さんと江崎さんのライブは夕闇の中で行われた。日が落ちたことで、できない演奏もあり、二人のライブは予定よりだいぶ短くなってしまった。音楽家たちの演奏を楽しみにして参加していたはずのお客さんにも、二人の音楽家にも本当に申し訳なかったが、江崎さんも中田さんも優しく「いいですよー」と笑ってくれた。申し訳ないけど、ありがたい、と思った。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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