未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
175

小さな森からのおすそ分け 100年後の森を描いて人が集う

文= 小野民
写真= 小野民
未知の細道 No.175 |10 December 2020
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#4寿香さんのこと

上原寿香さん

さてここで、寿香さん自身のことを少し。フィールドワーク後に改めてインタビューした内容を差し込ませてもらう。なかなか興味深い経歴なのだ。

まず、彼女のルーツは、スピードスケートの選手。長野県の軽井沢で育ったので、学校の校庭にもスケートリンクがある環境だったそう。高校ではインターハイ、卒業後は就職して実業団のチームで経験を積む。しかし、会社の事情で数年経たずにチームを去ることになり、自分の道を切り拓いていかねばならないことに。

その後、土日に集中的に働くホリデー社員一期生として「星野リゾート」に入社し、スケートは続けるが、資金面などの両立も難しく方向転換。スペシャルティーコーヒーを日本に広めた「丸山珈琲」で焙煎師の経験を積み、その後ウィスキー工場の案内人として勤めた後、結婚、出産と続き、今にいたる。ちなみにパートナーは全く畑違いの会社員だそうでcamino natural Labo.には干渉しない。畑仕事や森仕事から販売まで、寿香さん1人で営んでいる。

コーヒーの焙煎師としてコロンビアに行って、持続可能性のある森でのコーヒー栽培に触れたり、コーヒーへの造詣が深まると同時にハーブの世界にも足を踏み入れたり、振り返れば今の活動に通じる布石はずいぶん前からあったのだなと話を聞いて感じた。

ハーブとアロマテラピーの専門的な学びは「蓼科ハーバルノートシンプルズ」にて資格を取得。その後、子育てと両立しながらメディカルハーブを取得。植物に関する学びとしては、環境と植物の声を聞く学びである、ポール・スミザー氏の「プランツコース」を2017年に卒業し、2018年にアドバンスコースを受講するなど、知識や体験を深めていった。

それにしても、現在の家とラボで過ごすようになってから4年目。週に1度のフィールドワークや週に2日のオープンデーをやるようになったのが今年というのは、行動力のある寿香さんにしては遅いのでは? と疑問に思って聞いてみた。

「石の上にも3年、何かを習得するには1万時間、オリンピックも4年周期……となにかの下準備をして基礎を築くにはそのくらい時間がかかると実感しています。だからこの土地を知ってみなさんに紹介するにもそのくらいの時間がかかりました」(寿香さん)。

ちょうどコロナの影響で、ハーブ屋さんとしてのイベント出店が軒並み中止になったこともあり、予約制で人が来られるオープンデーを作ったのは今年の4月、フィールドワークは9月に始めたばかり。3000坪の土地を森にしようと1人で黙々と作業をする姿を想像するとストイックな印象を受けるが、「私が楽しいと思えることじゃないと、100年続かないじゃない? だから無理はしないし、楽しめる方法を考えながらやっています」と寿香さん。常に100年スパンの物差しは、壮大なだけじゃなく、なんだか大らかだ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
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