
東京都あきる野市
脱サラし、東京の山奥でヤギ飼いになった若者がいる。その理由と現在の生活が知りたくて、あきる野市に向かった。
最寄りのICから【C4】首都圏中央連絡自動車道「日の出IC」を下車
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堀周(ほり・いたる)さんが山裾の急な斜面をくだっていくと、まだ生まれて数日しか経っていない赤ちゃんヤギたちが、メェメェとかわいらしい声で鳴きながら、慎重な足取りで後をついていく。斜面を登り始めると、ぴょこぴょこ跳ねるようにして、やっぱり後をついていく。堀さんがヤギ小屋の前に腰掛けると、あっという間に子ヤギたちに囲まれ、メェメェメェメェの大合唱だ。
ここは、東京都心から車でわずか90分、東京都あきる野市にある養沢ヤギ牧場。周囲を緑豊かな山に囲まれ、隣家も目に入らず、すぐ近くを清流の川が流れるこの景色だけを見たら、ここが東京だとわかる人はいないだろう。
堀さんは、山の斜面を切り拓き、手作りの柵で囲ってヤギを放牧し、その乳でチーズを作っている酪農家であり、チーズ職人だ。住まいは、ヤギ牧場の隣りに建つ築約100年超の古民家で、妻と幼い子ども3人と暮らしている。
養沢ヤギ牧場のある一帯はスマホの電波が通じておらず、家の脇まで一本の細い道路が通じているものの、その先は行き止まり。基本的に、養沢ヤギ牧場に用事がある人が訪ねてこない限り、家族以外の人間の姿を見ることはない。耳を澄まさなくても、聞こえてくるのは川のせせらぎと、鳥の鳴き声、そしてヤギのメェメェだけ。
山深く、人の気配のないエリアだからか、周囲は野生動物の宝庫。シカ、イノシシ、猿、キツネ、ハクビシン、アライグマが生息し、「見たことはないけど、クマもいるらしいです」。
「東京じゃないみたいですよね」と笑う堀さんに、僕は「開拓民っていう感じですね」と答えた。ヤギ飼いといえば『アルプスの少女ハイジ』に出てくるペーターしか知らないが、堀さんはペーターとはだいぶ違う人生を歩んできた。東京理科大学を卒業して、企業で勤めた後に脱サラして、2020年、妻子を連れてこの場所で養沢ヤギ牧場を開いている。
なんで?