
1回の醸造で造るミードの量は、550リットル。そのために約220キロの蜂蜜を使う。全体の4割が蜂蜜であとは水だから、ミードからは驚くほどハッキリと蜜源の花の香りがする。「秩父百花」に鼻を近づけると、まさにいろいろな花が咲き乱れる広大なお花畑にいるような華やかな香りが脳内を満たした。
ディアレットフィールド醸造所では、水で希釈した蜂蜜に、日本酒で使う酵母を入れる。酵母は生き物で、「糖分を食べて、アルコールを作る」という性質を持つ。時間が経てば経つほど糖分が減り、アルコール度数が増す。エレナさんは、アルコール度数10%で発酵を止める。これには、明確な意図がある。
「6%、8%で発酵を止めると、お酒好きからすると少し蜂蜜ジュースのように感じます。逆に、発酵を止めずに放っておくと14%ぐらいまで上がりますが、ハニーワインのようになってしまいます。10%で止めることで、蜂蜜本来の甘みを残しながら、お酒好きも、お酒をあまり飲まない人もおいしく感じる味になるんです。みんなでワイワイしながらミードを楽しんでほしいですね」
お酒が得意じゃない人には、リンゴジュースやジンジャーエール、ジャスミンティーで割ったり、紅茶にちょっと注いだり、アイスにかけるなどさまざまな飲み方を提案する。これは、酒蔵巡りをしていた大学時代に学んだ「いくら作品のようなお酒を造っても、それを売らなきゃしんどい」という気づきへの答えでもある。たくさんの人にミードを飲んでもらうために、間口を広げているのだ。
ディアレットフィールド醸造所の秩父シリーズはほかに、東南アジアのライチの花から採蜜された蜂蜜を使った「秩父月花」、りんごの花の蜂蜜で造る「秩父星花」がある。どちらも、ライチとりんごの香りが爽やかだ。
ちなみに、ミードは醸造段階では濁っていて、そこにひと手間加えることで「おり」が下がっていく。その上澄みをろ過した透明度の高いミードが、秩父シリーズである。
2025年5月25日に小鹿野で開催される「第75回全国植樹祭」を記念して、1200本限定で製造した蜂蜜酒「秩父縁花」も、ろ過したミード。こちらは、秩父産、会津産、伊勢産、出雲産、東京産の蜂蜜をブレンドしたもので、会津産の蜂蜜は、2001年の敬宮愛子内親王殿下御生誕を記念して植樹されたオオヤマザクラの花から採れた蜂蜜を使用した。