
2018年、「秩父でミードを造りたい」と秩父市役所に連絡すると、「東京農業大学に相談しましょう」と提案された。偶然にも、2017年11月、東京農大がちちぶ定住自立圏(埼玉県秩父市、横瀬市、皆野町、長瀞町、小鹿野町)と包括連携協定を締結していたのだ。その活動内容のひとつが、「地域産業資源を活用した6次産業化と人材育成に関すること」。
この活動の対象者としてうってつけだったエレナさんは、秩父市を通して母校の担当教授に連絡を取った。訪問した際、担当の教授が秩父エリアの地図を広げ、「ここに蜂蜜があります」と指さしたのが、小鹿野町。秩父エリアのなかでも山のすそ野に位置する小鹿野町には、今も養蜂家が活動しているのだ。
エレナさんは、小鹿野町の町長と町役場の関係者にプレゼンする機会を得た。それが好評を得て、2019年1月、前年に生まれたばかりの長男を連れて小鹿野町に移住。4月より小鹿野町の地域おこし協力隊として移住関係の窓口を担当しながら、醸造所の設立に向けて本格的に動き始めた。
醸造所を作るにあたり、エレナさんの希望は学校の体育館を利用すること。しかし、既存の体育館は学校の部活動で使われていたり、災害の際の避難場所に指定されていたりして、なかなか見つからない。それならと、もともと温浴施設だったところやシャツ工場だったところを提案されるも、条件に合わない。
1年経ち、ジリジリと焦り始めた頃に町役場から提案されたのが、廃校になっていた旧町立倉尾中学校の体育館。エレナさんが求めていた理想の場所が、そこにあった。
「町役場としては、新しくてきれいな場所を貸さなきゃと思っていたみたいです。でも、私たちは薪ボイラーを使うこともあって、人里から離れているほうがよかった。しかもここはすぐ近くに川が流れているし、手掘りのトンネルもあったりして、田舎で育った私好みの風景でした。ここの体育館を見た瞬間、ドンピシャだと思いましたね」