
小鹿野町に来てから1年後の2020年、ようやく醸造所の内装に着工。同時進行で、酒類製造免許の取得に向けて書類の整備を始めた。税務署に行ってイチから教わるも、用意しなければいけない書類がどんどん増えて、次第に辞書のような分厚さになっていく。
さらに、醸造所を完成させ、事業をスタートするための融資も必要だった。これがまた、難しかった。金融機関からすれば、酒類製造免許のない人に酒造りのためのお金を貸すのはリスクが高い。しかし、醸造所ができあがらない限り、酒類製造免許は取得できない。
代表の工藤宏樹さんとエレナさんは税務署と金融機関を何度も訪ね、交渉を重ねた。この年、第二子となる長女の妊娠と出産が重なり、「地獄でしたね。死ぬかと思った」と苦笑する。その地獄が終わったのは、2021年7月。1年以上の時を経て、酒類製造免許を取得した。
2012年に峰の雪酒造場を訪ねてから、10年の年月が経っていた。
ディアレットフィールド醸造所で最初に作ったのは、「秩父百花」と名付けたミードだ。複数の種類の花から採集された蜂蜜を「百花蜜」と呼ぶ。エレナさんは小鹿野町の養蜂家や秩父エリアの養蜂家から「百花蜜」を仕入れている。こだわりは、春の花だ。
「東京農大とも相談して、秩父エリアで活動する10人ぐらいの養蜂家さんと連携しています。大量の蜂蜜が必要なので、養蜂家さんにミツバチを配ったり、蜜源になる花を植えたりもしてきました。百花蜜には夏とか秋もあるんですけど、私たちは春の蜂蜜を採取してもらっています。小鹿野町は山に囲まれているので、桜やふじ、アカシア、とちの花の蜜が多いと思います。年間500キロから1トンぐらい、地元の蜂蜜を仕入れていますね」