未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
286

別世界!?全日本毛がに早食い競争 ガブリ!と毛ガニにかぶりつく。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.286 |12 August 2025
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#7「けがに気をつけてください」

おさらいしよう。前日、加藤さんのインタビューをした際に得ていた助言はこうだ。

・味わうのではなく、詰め込む。
・足は後回しで、一番重い胴体から食べる。
・エラも殻もぜんぶ食べる。
・流血も厭わない。

「もし加藤さんが出場したら、優勝を狙えますか?」と尋ねると、「決死の覚悟で臨めば、入賞は狙えると思います。どこまで自分を追い詰めるかで、結果が変わるでしょう」と言った。勝利のヒントに「決死の覚悟」も含めよう。インタビューの最後、加藤さんは「けがに気をつけてください」と言ってニヤリと笑った。恐らく、日本広しといえども、「全日本毛がに早食い競争」の時にしか使われることにない、毛ガニにかけたギャグだ。

かつてない90秒間の死闘の幕開け。(撮影:サオリス・ユーフラテス)

司会者の「スタート!」の声とともに、ふんどしを外し、甲羅を取る。僕は前日から念入りにイメージトレーニングを重ねていたので、ここまではスムーズだった。問題は、経験がないからイメージしようがなかった、毛ガニにかぶりついた後のこと。想像以上にトゲが口のなかであちこちに刺さって、痛い。毛ガニのエラが苦い、というか不味い。殻の部分が硬くてなかなか飲み込めない。それでもガムシャラに、咀嚼する。

毛ガニをまっぷつに割り、かぶりつく。(撮影:サオリス・ユーフラテス)

さすがに、身がない甲羅をバリバリと食べる気は起きず、胴の部分を終えてから、足に移った。「タイムリミットが来た時に口を閉じることができたらOK」というルールだから、口のなかに分解した足をどんどん詰め込んでいく。「終了!」のアナウンスとともに、はみ出しそうになっていた足を無理やり押し込んだ。

必死に毛ガニの足を口に詰め込んでいるところ。(撮影:サオリス・ユーフラテス)

ボランティアの大学生が速やかに毛ガニの皿を回収し、計量が始まる。その間、司会者にコメントを求められ、「テッペン取るために来ました!」と言うと、会場から拍手が起きた。やるだけのことはやったという充実感がある。毛ガニ20杯を受け取り、鼻高々で優勝コメントをする自分の絵が浮かぶ。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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