おさらいしよう。前日、加藤さんのインタビューをした際に得ていた助言はこうだ。
・味わうのではなく、詰め込む。
・足は後回しで、一番重い胴体から食べる。
・エラも殻もぜんぶ食べる。
・流血も厭わない。
「もし加藤さんが出場したら、優勝を狙えますか?」と尋ねると、「決死の覚悟で臨めば、入賞は狙えると思います。どこまで自分を追い詰めるかで、結果が変わるでしょう」と言った。勝利のヒントに「決死の覚悟」も含めよう。インタビューの最後、加藤さんは「けがに気をつけてください」と言ってニヤリと笑った。恐らく、日本広しといえども、「全日本毛がに早食い競争」の時にしか使われることにない、毛ガニにかけたギャグだ。
司会者の「スタート!」の声とともに、ふんどしを外し、甲羅を取る。僕は前日から念入りにイメージトレーニングを重ねていたので、ここまではスムーズだった。問題は、経験がないからイメージしようがなかった、毛ガニにかぶりついた後のこと。想像以上にトゲが口のなかであちこちに刺さって、痛い。毛ガニのエラが苦い、というか不味い。殻の部分が硬くてなかなか飲み込めない。それでもガムシャラに、咀嚼する。
さすがに、身がない甲羅をバリバリと食べる気は起きず、胴の部分を終えてから、足に移った。「タイムリミットが来た時に口を閉じることができたらOK」というルールだから、口のなかに分解した足をどんどん詰め込んでいく。「終了!」のアナウンスとともに、はみ出しそうになっていた足を無理やり押し込んだ。
ボランティアの大学生が速やかに毛ガニの皿を回収し、計量が始まる。その間、司会者にコメントを求められ、「テッペン取るために来ました!」と言うと、会場から拍手が起きた。やるだけのことはやったという充実感がある。毛ガニ20杯を受け取り、鼻高々で優勝コメントをする自分の絵が浮かぶ。