もうひとつ手付かずだったのは、映画の編成。映画館は上映したい作品を取り扱う配給会社と連絡を取り合い、上映期間などを決める。複数の映画を流す場合は、それぞれの映画の配給会社とやり取りしなければいけない。集客だけを考えれば、人気作品を集めればいいだろう。でもそれなら大手映画館と同じ編成になる。なにを上映するのか、ミニシアターの個性が問われるところだ。
当初は今井さんが自分で担当するつもりで配給会社にも挨拶回りをしていたが、建物の設備工事を自社で担当していたこともあり、ブッキングやデータの取り扱いなどの具体的な手順については後回しになっていた。とはいえ、そろそろ準備をしなくてはとお尻に火が付き始めた竣工2カ月前、東京の田端にあるCINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)の支配人、平塚千穂子さんから連絡があった――。
このプロジェクトが始まった時、今井さんが会いに行った映画館支配人のひとりが、平塚さんだ。2016年に開館したシネマ・チュプキ・タバタは、日本初のバリアフリーに対応した「ユニバーサル映画館」として知られる。
「目が見えない人も、音が聞こえない人もみんな同じ空間で映画を楽しめる映画館」に感銘を受けていた今井さんは、平塚さんと初めて会った日から意気投合。その後の2023年7月、シネマ・チュプキ・タバタで開かれたトークイベントのゲストとして今井さんが招待されるなど交流が続いていた。
平塚さんからの電話は、思っても見ない提案だった。なんと、平塚さんのもとで2022年から3年間、映画の音声ガイドの制作や上映する映画の編成、映写などを担当してきた柴田笙さんの新天地として、「OttOさん、いかがでしょうか?」という話だったのだ。柴田さんの意志を確認した今井さんは、諸手を挙げて歓迎した。
「彼はプロフェッショナルですよ。なんでもできて、ほんとにすごいんです」