未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
296

食べる!飲める!住める!集う! 公民館みたいな映画館「OttO」の幕開け

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.296 |13 January 2026
この記事をはじめから読む

#11誰でも受け入れられるような空間に

今井さんの構想は、まだまだ広がる。ある日、某NPOの担当者から、OttOの近くにある埼玉県立小児医療センターに長期入院する子どもを見舞う親が宿泊する場所が不足していて、なかにはマンガ喫茶に泊まっている人もいるという話を聞いた。今井さんは、大変な思いをしているその親たちのためになにかできないかと思案している。

「例えば、いくつかの企業が少しづつお金を出し合ってうちのシェアハウスの部屋を借り上げて、親御さんが泊まれるようにするとか、みんなで病気の子どもと家族を支えるみたいな仕組みができたらなと」

このアイデアが実現したら、と想像してみる。OttOには防音鑑賞室があるから、入院中でも短時間の外出が許される子どもなら、ほかの観客のことを気にせずに親子で映画を楽しむことができる。最前列にあるふたりが寝そべって鑑賞できるソファシートで、親子が横になりながら映画を観ることもできる。

劇場最前列のソファシート。2席分の予約が必要だが、料金は通常料金と同額。予約が入っていない時は、ひとりでも利用可能。

病院でも映画を観ることはできるかもしれない。でも、大画面で、こだわりの音響システムに囲まれながら観る映画は、病気の子どもにとって特別なものになるだろう。入院している子どもの付き添いに来ている保護者だけがOttOに泊まるにしても、その日最後の回や朝一番の回に映画を観ることができたら、気が晴れるかもしれない。

「そういう場所になったら最高だなと。誰でも受け入れられるような空間があったほうがいいので」

公民館のような映画館。前代未聞のチャレンジは、まだ始まったばかりだ。その行き先にはなにが待ち受けているのかわからないが、少なくとも現時点で、今井さんが思い描いた光景はひとつ実現した。取材中、中学生になった息子さんが学校帰り、OttOに立ち寄ったのだ。オットという名前は、息子さんがいつも今井さんに呼びかける「おっとう」が由来。名付け親の息子さんを僕に紹介する時、今井さんはこの日一番の笑顔を浮かべていた。

「すごいもん作っちゃったなと思います。でもここからが本番ですからね」と気を引き締めていた今井さん。
このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。