今井さんの構想は、まだまだ広がる。ある日、某NPOの担当者から、OttOの近くにある埼玉県立小児医療センターに長期入院する子どもを見舞う親が宿泊する場所が不足していて、なかにはマンガ喫茶に泊まっている人もいるという話を聞いた。今井さんは、大変な思いをしているその親たちのためになにかできないかと思案している。
「例えば、いくつかの企業が少しづつお金を出し合ってうちのシェアハウスの部屋を借り上げて、親御さんが泊まれるようにするとか、みんなで病気の子どもと家族を支えるみたいな仕組みができたらなと」
このアイデアが実現したら、と想像してみる。OttOには防音鑑賞室があるから、入院中でも短時間の外出が許される子どもなら、ほかの観客のことを気にせずに親子で映画を楽しむことができる。最前列にあるふたりが寝そべって鑑賞できるソファシートで、親子が横になりながら映画を観ることもできる。
病院でも映画を観ることはできるかもしれない。でも、大画面で、こだわりの音響システムに囲まれながら観る映画は、病気の子どもにとって特別なものになるだろう。入院している子どもの付き添いに来ている保護者だけがOttOに泊まるにしても、その日最後の回や朝一番の回に映画を観ることができたら、気が晴れるかもしれない。
「そういう場所になったら最高だなと。誰でも受け入れられるような空間があったほうがいいので」
公民館のような映画館。前代未聞のチャレンジは、まだ始まったばかりだ。その行き先にはなにが待ち受けているのかわからないが、少なくとも現時点で、今井さんが思い描いた光景はひとつ実現した。取材中、中学生になった息子さんが学校帰り、OttOに立ち寄ったのだ。オットという名前は、息子さんがいつも今井さんに呼びかける「おっとう」が由来。名付け親の息子さんを僕に紹介する時、今井さんはこの日一番の笑顔を浮かべていた。