ここから先は本題から外れるので割愛するが、追求の過程で出会う人たちに自己紹介をする機会も多く、町のコミュニティになる場として映画館を作りたいとあちこちで話していた。これが巡り巡って追い風となる。
融資を減額されて困っていると知った人たちが、金融機関に「町にとっていいことを考えている人だから、話を聞いてあげて」と後押ししてくれた。それが功を奏し、増額分も含めて融資の決裁が降りたのだ。
「道路のことは、映画館の話とはぜんぜん関係なかったんですよ。でも、僕が道路にこだわっていなければ、この映画館はできなかったと思います。世の中なにが起きるかわかんないから面白いですよね」
無事に資金の目途が立ち、1年間にわたる工事が始まった。映画館の設備を手掛ける会社は「日本に3社しかない」そうで、今井さんはそのなかの1社であるジーベックス社と手を組んだ。最初に問い合わせた時、営業担当者に「映画館単体をやろうとしているなら、お勧めできません」と忠告され、「この人はただの営業マンじゃない」と感じたそうだ。
その直感は当たった。その営業Tさんはミニシアターの個性や役割を大切に思っている人で、今井さんの思いに共感し、自分のアイデアを惜しまずに出してくれた。
そのTさんが連れてきたのが、イースタンサウンドファクトリーの社長Sさん。ふたりは、坂本龍一氏が音響を監修した「東京・109シネマズ プレミアム新宿」のサウンドシステムのデザインを担当している。ふたりの協力を得て、OttOには「東京・109シネマズ プレミアム新宿」に次いで日本で2館目となるBWV Cinemaの音響が導入された。
商業映画館では日本初となる塗布スクリーンもTさんの勧めで採用したものだ。
「フレームを組む一般的な映画館のスクリーンは数百万円するんですよ。でも塗布スクリーンは壁に特殊なペンキを塗るだけなんで、かなり節約できます。しかも、普通はスクリーンの後ろにスピーカーを置くので、音を透過させるためにスクリーンにサウンドホールという穴が開いているんです。それがないので、細かいところまで鮮明に見えるんですよ」
映画館のイスも、Tさんからの情報を得て入手した。山形のミニシアター「鶴岡まちなかキネマ」が4スクリーンから2スクリーンに減らすことになり、200脚のイスが宙に浮いた。そのイスは山形の木材を使った特注品で、趣もある。Tさんからその話を聞いた今井さんは、50脚を引き取ることにした。
まさに「ただの営業マンじゃない」Tさんのフル回転の活躍で、OttOは映画館の設備工事を無事に、安く終えることができたのだ。