イベント前日の金曜朝、新千歳空港に着いた僕は車を借りて当別町に向かった。空港からひたすら北上しておよそ1時間、北海道メープルハウスは札幌を抜けてすぐの場所にあると思えないほど雪深い森の麓にあった。
待ち合わせの11時、ギャニオンさんがちょうど小屋から出てきたところで対面し、「初めまして!」と挨拶を交わす。「川内さーん! よろしくお願いします!」と握手を求めるギャニオンさんは、いかにも陽気な雰囲気だ。
その日は1日樹液を採取するということで、取材を兼ねてお手伝い。この時は「滅多にない体験ができるぞ」とワクワクしていたけど、それが甘い考えだったと知るのはもうしばらく経ってから。
早速、ギャニオンさんが運転するスノーモービルの後ろに乗せてもらい、森へ。その日はそれほど寒くなくて、冷たい風が気持ちよく感じた。5分も走ると、目的地につく。
僕は2018年、秩父に生えているカエデでメープルシロップを作っているメープルベースの取材をしたことがあり、その際に樹液の採取方法を聞いていた。そこではカエデの樹にタップと呼ばれる蛇口を刺し、そこから流れ出る樹液をバケツで受ける方法で採取していた。その時は現場を見ることができず、写真で見せてもらっただけだったけど、それが主流の方法だと思っていたから、目の前の光景に驚いた。
数十本のカエデの樹にチューブがつながれていて、そこから麓に置かれた大きなタンクに樹液が流れ込むようになっているのだ。これなら、樹液が溜まったバケツをひとつひとつ回収する必要がなく効率化だ。
そうそう、メープルシロップといえばカナダというイメージがないだろうか? 実は広大なカナダのなかでもほとんどが東部のケベック州とオンタリオ州で作られていて、なかでも世界シェアのおよそ7割を占めるギャニオンさんの故郷ケベック州では、以前からこの方法が浸透しているという。
「バケツを使うのは、昔の方法ね。今もやっている人はいるけど、ほとんどホビーです。私の友だちのファミリーは、1万本とか5000本のカエデからメープルシロップを作ります。チューブじゃないと難しい」
ギャニオンさんは午前中、2往復して2つのタンクに溜まった樹液を空のタンクに流し込み、それをシュガーハウスに設置した貯蔵タンクに移した。樹液は、無色透明無臭。これを煮詰めたらメープルシロップになると発見した人、すごくない?