
青森県北津軽郡
江戸時代の紀行家、菅江真澄。生涯の大半を旅に費やした彼が、西日本から青森に持ち込んだのが「シロバナタンポポ」だ。雪深い青森では自生しないこの白いタンポポを、真澄が逗留した北畠家の子孫たちが代々守り継いできた。5月の2週間にしか咲かないと言われるこの花は、近年その数を減らしつつあり、その保全活動が続けられている。真澄とシロバナタンポポが紡いだ歴史、そして若き継承者・北畠清美さんの「生ける文化財」を守る情熱を追った。
最寄りのICから【E4】東北自動車道「浪岡IC」を下車
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やった! よく晴れた。日差しがこれだけあれば、日中の気温も上がるだろう。これなら貴重な「青森のシロバナタンポポ」が見られるかもしれない。朝、目覚めてホテルのカーテンを開けた瞬間、私はそう思った。
まさに五月晴れだ。私は青森県板柳町の町立板柳東小学校に向かっていた。一緒にいるのは、イラストレーターでデザイナーの北畠清美さん、そしてパートナーで、映像や写真を制作しているアメリカ人のモーガン・スミスさん。
私たちは今から、清美さんとその先祖が約226年かけて守ってきた歴史的な花、「シロバナタンポポ」を見に行くのだ。清美さんからは事前に「日照条件や気温によって花が開かないかもしれないです。花が見られるかどうかは、博打みたいなものなんです」と伝えられていた。前日の青森県内は大雨で肌寒く、明日の朝は晴れて暖かくなってくれるだろうかと、私は気が気ではなかったのだ。
車を降りて目を凝らした先、校庭の花壇に白い小さな花が揺れている。花の数は、30、いや50以上はあるだろうか。去年の五月、清美さんが弘前大学の研究者とともに授業として小学生たちと植え付けた白いタンポポの花が、一年のうちたった今だけ、咲いているのだ。
「わあー! 咲いている! たくさん咲いている!!」私は大声をあげた。「子どもたち、いっぱい、ちゃんと水やってくれたんだなあ……」と清美さんは感慨深げだ。
「この取材を、松本さんが来るのを、シロバナは待っていてくれたんだね!」というのは、先に校庭に来ていた清美さんのお母さんの千春さん。清美さんのシロバナタンポポの保全活動を、一番近くで見守っていた人だ。
タンポポの遥か向こうには、雪をいただく岩木山が青空によく映えている。「この辺りの家は皆、岩木山がよく見えるように建てられているのよ。学校もそう」と千春さんが続けて言った。
長く厳しい冬の雪に閉ざされる青森の大地は、遅い春の訪れとともに、一斉に植物が咲き乱れ、五月の今が、いちばん美しい季節なのだ。今日は晴れたけれど、岩木山から降りてくる風は、とても強い。その風の中で白いタンポポは、可憐に咲いていた。うん、「一所懸命」という言葉がぴったりだな、と揺れる花を見て思った。