埼玉県こども動物自然公園は、チロエ島の環境を模するために、園内の西側に3900㎡の土地を用意。高さ4メートルを超える草地の丘、造波装置付きのプールなどを用意し、2011年の4月、世界最大級のペンギン施設をオープンした。
ところが、ペンギンヒルズに連れてこられたペンギンたちは、故郷をほうふつさせる環境に大喜び! とはならなかった。最初に同園に集められたペンギンたちは、みな室内の展示施設からやってきた。生活の場がコンクリートの上だったから、土の地面の感触にすら怯えて、彼らにとって慣れ親しんだプール周辺から動かない。そこで、小山さんは知恵を絞った。
「ペンギンは仲間がいると怖がらないので、人工で育てたペンギンを連れて丘の上に行って、その姿を見せたり、鳥の模型を置いてみたり、いろいろ試行錯誤しました。一番、効果があったのは写真です。フンボルトペンギンの等身大の写真をべたべた張って、あそこに仲間がいるなら大丈夫だろうという雰囲気を作ったら、次の日には写真につられて登ってくるようになりました」
こうして、警戒するペンギンと警戒を解きたい小山さんたち飼育係のせめぎ合いは次第に落ち着いた。環境だけでなく、「人間は危険な存在ではない」ということも認識されたことで、来園者はペンギンたちが丘の巣からプールまでペタペタ、よちよちと歩いて移動する様子を間近に見ることができるようになり、同園の人気施設となったのである。
僕が訪れた時は鳥インフルエンザの影響で残念ながらプールでくつろぐ姿しか眺めることができなかったけど、それでもガラス張りのプールで泳ぐペンギンを見て、子どもだけでなく、大人まで大喜びしていた。
(ペンギンヒルズでの小山さんの奮闘は、『動物翻訳家』(片野ゆかさん著)という書籍で詳しく紹介されているので、もっと知りたいという方はぜひ書籍を手に取ってほしい)

川内イオ