未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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幻の落花生をピーナッツバターに!

NutsによるNutsのための物語

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.93 |25 June 2017
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#9アメリカでは一瓶20ドル!

浜松の某ナチュラル系スーパーで山積みされている杉山ナッツの商品

 ピーナッツは1年に1度しか収穫できない。作り直しがきかないから、毎年が一発勝負になる。初年度の収穫で改めて遠州小落花が持つ可能性に確信を得た杉山さんは、作付けの規模を段階的に拡大しながらも「一番美味しいピーナッツバター作りたいから、一番良いピーナッツを作ろう」と、どんどん新しい策を講じた。

 現在、作付面積は3000坪に達しているのだが、例えば、収穫した後の畑で小麦を植えるようになった。冬の間に育てた麦は、腰くらいまで伸びた時に全て刈りとって畑の中に混ぜ込んで肥料にする。これも文献にあった「緑肥」という手法だ。これは連作障害を防ぎ、同時に土を肥やす昔ながらの知恵である。

細かなオーダーに応じてくれる熊本の業者を探し出して注文した焙煎機

 焙煎機は、市販のものでは目指す味が出ないので、細かな注文を聞いてくれる業者を探し出して遠赤外線機能がついている黒釜の焙煎機を作った。渋皮を取るのも、普通は一度お湯に浸して皮をむく機械を使うのだが、せっかく天日で乾燥させたものを水に浸すのは馬鹿らしいという理由で、近所の農家からもらった米のもみ殻を取る機械を改造した。

 とにかく、豆のためにできることは全部やる。その心意気は、唯一の無二のピーナッツバターとなって広がっている。最初に2、3件、商品を置いてほしいと頼みに行ってから口コミだけで問い合わせがどんどん増えて、3回目の収穫にして一瓶で1000円を超える商品が1万5000本、完売するようになった。

 アメリカのマンハッタンの2店舗とブルックリンの1店舗にも卸している。スーパーでは3ドル程度からピーナツバターが売られているなかで、販売価格は一瓶20ドル。それでも、毎月84瓶を送って順調に売れている。

渋皮を取るために改造した米のもみ殻を取る機械
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未知の細道 No.93

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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