ピーナッツは1年に1度しか収穫できない。作り直しがきかないから、毎年が一発勝負になる。初年度の収穫で改めて遠州小落花が持つ可能性に確信を得た杉山さんは、作付けの規模を段階的に拡大しながらも「一番美味しいピーナッツバター作りたいから、一番良いピーナッツを作ろう」と、どんどん新しい策を講じた。
現在、作付面積は3000坪に達しているのだが、例えば、収穫した後の畑で小麦を植えるようになった。冬の間に育てた麦は、腰くらいまで伸びた時に全て刈りとって畑の中に混ぜ込んで肥料にする。これも文献にあった「緑肥」という手法だ。これは連作障害を防ぎ、同時に土を肥やす昔ながらの知恵である。
焙煎機は、市販のものでは目指す味が出ないので、細かな注文を聞いてくれる業者を探し出して遠赤外線機能がついている黒釜の焙煎機を作った。渋皮を取るのも、普通は一度お湯に浸して皮をむく機械を使うのだが、せっかく天日で乾燥させたものを水に浸すのは馬鹿らしいという理由で、近所の農家からもらった米のもみ殻を取る機械を改造した。
とにかく、豆のためにできることは全部やる。その心意気は、唯一の無二のピーナッツバターとなって広がっている。最初に2、3件、商品を置いてほしいと頼みに行ってから口コミだけで問い合わせがどんどん増えて、3回目の収穫にして一瓶で1000円を超える商品が1万5000本、完売するようになった。
アメリカのマンハッタンの2店舗とブルックリンの1店舗にも卸している。スーパーでは3ドル程度からピーナツバターが売られているなかで、販売価格は一瓶20ドル。それでも、毎月84瓶を送って順調に売れている。

川内イオ