この日の観察ツアーの参加者は9人。被害の大きかった台風の直後で少なめの人数での開催だったが、いつもは定員20名があっという間に埋まる人気だそう。案内役を務めるのは、サンクチュアリセンターの嶋田哲郎さん。「ガンの研究では右に出る者はいない」といわれる鳥類学者だ。
サンクチュアリセンターからバスで数分の場所にある観察スポットに行く前に、簡単なレクチャー。地図を見ながらこれから行く場所について教えてもらう。
「多い時には10万羽のガンが飛来する場所で、その数は日本に来る渡り鳥の9割以上ですから、 これから見る景色は全くここだけのオリジナルな光景なんですよ」と話す嶋田さんの声には力が込もっていた。
さて、観察スポットに着くと、すでにびっしり縦列駐車された車。県外ナンバーもたくさんで、手には大きな望遠レンズの付いた一眼カメラ、という人が多い。この日、同じツアーに参加していた90歳を超えているというおじいさんも、三脚と立派なカメラを携えて、「朝焼けをバックに飛び立つガンを撮りたい」と燃えていた。
5時40分。少しずつ白んでくる空の下、沼からはギャアギャアという鳴き声が絶えず聞こえてきて、水面ではもぞもぞと動く影。「だんだん朝になってきたから鳴いているんですか?」と聞いてみると、「いやぁ、一晩中鳴いているんですよ」と嶋田さん。また、同じ沼地をねぐらにするカモは夜行性で、 ガンと入れ替わりでねぐらに戻ってくるそうだ。