未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
161

『旅の思い出』編 盛岡で過ごした7回の夏

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.161 |15 May 2020
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#4

そうこうするうちに、あの震災がやってきた。
その前年には車を借りて宮古まで行ったのだが、あの美しく賑わっていた海辺が津波にのまれたのだということが、よく想像できなかった。

震災後の初めての夏。初日の授業の直前に、盛岡駅からタクシーに乗って大学に向かった。街の様子はどうですかと尋ねると、タクシーの運転士さんは「沿岸地域から盛岡まではだいぶ距離があるからね、盛岡の街は地震前とそんなには変わってないのですよ」と教えてくれた。1年ぶりに聴く盛岡の訛りは懐かしく、そう思う自分が、なんだか啄木の停車場の歌みたいだな、と思った。

しかし街はやはりどことなく変わっていた。地震被害の影響で潰れたお店もあった。沿岸地域から盛岡に避難している人も多いと聞く。そして学内には安否確認、ボランティア、学費の支援など震災に関するさまざまな張り紙が貼られていた。学生との授業の中でも、発言の端々から、彼らの生活に震災の影が響いていることを感じるのだった。

「時間があるなら沿岸のボランティアに行ってきたら」と美術のW先生が勧めてくれたが、そんな力も湧かずに、その年の滞在は過ぎた。自分でも震災のショックが大きすぎて、あの頃はまだ、まったく消化できていなかったのだと思う。

岩手大学の学生の中にも、津波に巻き込まれて亡くなった人がいるということだった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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