さて。「地域おこし協力隊」への応募は落選したものの、私はその3か月後の7月下旬、再び戸隠山を訪れた。また急な山道を行き、着いた先は1軒のお蕎麦屋さん。戸隠蕎麦!おいしいですよ!「ぼっち盛」という一口大にくるっと丸めたお蕎麦がざるに載って……と、それはそうだけど、このとき私はお蕎麦屋さんで夏の間だけの住み込みアルバイト研修に行ったのだ。
「私には無理だ、ここには住めない」と思ったのに、人生の旅は迷い道くねくね。実は、初めて訪れた春に仲良くなったお蕎麦屋さんに声を掛けて頂き、そういうことになった。
お蕎麦屋さんがあったのは戸隠神社の中社がある辺りで、多くのお蕎麦屋さんやお土産屋さんが集まるエリア。夏の土日ともなると、標高1200メートルのそこに涼を求める人が午前中から集まり、昼前にはもう車が大渋滞する。でも、私はお蕎麦屋さんの厨房でひたすら洗い物をしていた。午前9時ぐらいから始まって、夕方4時まで。お客さんが途切れることはない。腰を屈めて深いシンクに山積みされた食器を洗い続けていると、指がふやけて真っ白になり、腰は斜め姿勢で固まった。
営業が終わると、今度はホースで厨房すべてを洗い流し、拭き掃除。終わるとやっと、大勢のアルバイトみんなでお昼ご飯のお蕎麦を食べた。
そして、観光地の夜は早い。バイトが終わると他のお店も閉まり始める頃だけど、まだ開いているお土産屋さんや、戸隠の名産品である竹細工の店を見つけていそいそ廻った。