しかし、正直に言うと、一か月半働く予定だったそこを、私はわずか1週間で辞めて帰ってきてしまった。1週間、夜一人でお蕎麦屋さんの2階に寝泊まりし、これから自分はどうしたらいいか?悩み、迷い、答えは出ず。障子を開けて外を見ると、昼間はあんなにいた観光客はいなくなり、外はひたすら深い、深い闇で、窓を開けて中社の方を覗き込んで祈ってみても、ただ暗闇が広がって何も見えない。怖くなって電気はつけっぱなしにして寝た。悩みすぎて迷いすぎ、一人卑屈に考えすぎて、親切にしてくれる人たちにもうまく心を開けず、やっぱりここには住めないと決め込んだのだ。
そして帰ってきて、私はまた元々やっていたライターの仕事をした。ふと思い立ち、前から好きだった大相撲の企画書を書いて出したら、それが記事になり、反響を呼んだ。そこから徐々に相撲を書くことが仕事の中心になった。本も書いて出して、TVやラジオにも出た。まぁ、だからと言って大きく何かは変わらない。今はステイホーム。みなさんと同じように、ウイルスの波が鎮まることを祈って暮らしている。
ただ、一昨年にまた戸隠を訪れた時、神社の奥社に登ってそれを見つけた。戸隠神社は奥社・中社・宝光社・九頭龍社・火之御子社の五社から成っていて、私が犬と歩いた中社よりもっと上、大木に囲まれた参道を行き、岩場を登ると奥社がある(とっても美しいところなので、ぜひとも足を運んでほしい)。
ふうふう言って登った奥社に立て看板を見つけると、そこには神社の由来が「大相撲の土俵祭の御祭神に御名を連ねるなど、武道・スポーツ必勝の神としても知られます」と書かれていた。あら。相撲の神さまだったのか。不勉強で知らなかった。迷い、足掻いて、人は行くべきところに気づかないうちに行っているのかもしれない。あれは修行の旅だったんだなぁと、ひそかに思っている。
※未知の細道では、新型コロナウイルスの影響が収まるまで、ライター陣の過去の旅をつづるエッセイを掲載いたします。