
長野県長野市
夏は避暑地として、冬はスキー場として観光客に愛される長野県・戸隠山。一方でその登山道はかつて修験道の場とされ、登る人に畏怖の念を与える厳しさを誇る。その山で体験したこととは……。
最寄りのICから【E18】上信越自動車道「長野IC」を下車
最寄りのICから【E18】上信越自動車道「長野IC」を下車
長野市内から車で1時間ほど。戸隠山を登る道のりは急峻で狭く、車ですら高い所や坂道が苦手な私は途中で何度もヒヤヒヤした。その登山道はかつて「修験道」の場とされ、「蟻の戸渡り」だの「剣の刃渡り」だの、字で見ただけで青くなるような切り立った行程が続くとオンラインガイドで読んではいたものの、車道まで急坂続きとは。車がんばれ、車がんばれと子どものような掛け声を心の中で唱え、停まったときにはふーっと大きく息を吐いた。
着いたそこは長野市役所の戸隠支所。えっ、市役所?何の用事で?実は初めて戸隠を訪れた2013年、私は「地域おこし協力隊」という総務省の移住交流プロジェクトに応募し、面接を受けようとしていたのだ。
人生には誰しも、いい時とうまくいかない時がある。今、新型コロナウイルスの影響によって世界の多くの場所で時が止まっているように、その頃の私もまたライターの仕事がほとんどなくなってしまい、にっちもさっちも身動きがとれないでいた。
そんな中で、ふと目にした「戸隠移住」の案内。そこがどんな場所か見たことも行ったこともないまま、藁をも掴むような気持ちで応募していたのだから、どれくらい切羽詰まっていたか想像していただけるだろう。
初めて行った戸隠はそんなわけで、ひたすら剣呑な山に思えた。牧歌的な里山を勝手に想像していたが、山の暮らしは移動するのも大変だ。支所の窓から外を見ると、山肌に貼り付くように畑が作られ、お年寄りが二人座り込んで農作業をしている。ああ、私には無理だ、ここには住めない。そう思いながら受けた面接は当然ながら失敗。その後、落選の通知を受け取ることになるのだが、それはとりあえず置いておく。その日は、面接が終わった後に「戸隠を見てもらいたいんです」と、市役所の職員の方が車に乗せてくれ、私や他の受験者たちを方々に案内してくれた。