
その一方で、私たちは悩んでいた。
すでに旅が後半に突入したわけだが、私たちはまだ知床の手前にいた。そして、頑張って前進し続けることにちょっと疲れてしまった。それよりも、いまは目の前にある風景をただゆっくり、のびのびと堪能したかった。
「もう、ここら辺まででいいよね」
「知床はいつかいこう」
「うん」
そう決めると一気に気楽になり、屈斜路川の流れをカヌーで下るツアーに参加することにした。
川の流れはとてもゆるやかで、初心者でも自力で漕ぎながら川の旅を楽しめるとのことだった。
屈斜路川は、屈斜路湖から流れ出る唯一の川で、十勝平野や森の中を蛇行しながら釧路湿原に出て、最後は太平洋に注がれる。全長154キロの長い川の割に、ダムが一つもないないというのは日本ではかなり珍しく、本来の「川」そのものがもつ原初の風景が見られるそうだ。
カヌーに乗り込むと、私たちはそのあまりの透明さと静けさに驚いた。木々に囲まれた川は青緑色に輝き、川底に沈む石や倒木までくっきりと見える。
すごい…。パドルを漕ぎながら何度もため息をついた。
聞こえてくる音は、川のせせらぎばかりで、時おり小さな鳥が頭上を横切り、ケーンという鳴き声が辺りにこだました。
旅の目的地である知床半島は見られなかった。
しかし、今日ここでゆっくりできて三人とも幸せだった。