
長野県茅野市
旅には、目的地がある。その場所に向かって、陸海空の道を行く。その時間は旅の過程に過ぎないけど、未知の道のりだからこそ、思い出深い旅路もある。今思い出してもドキドキする旅路を振り返ろう。
最寄りのICから【E20】中央自動車道「諏訪南IC」を下車
最寄りのICから【E20】中央自動車道「諏訪南IC」を下車
「……」
カーナビに搭載された女性の声が「目的地に着きました」と告げた時、僕は茫然としていた。しばらく前から、ナビを見て、なんかおかしい、どうもおかしい、ずいぶんおかしいと思いながら車を進めていたのは事実だ。
それでも「いやいや、まさかそんな、勘弁してくださいよ!」「もう、冗談はよしこちゃん!」と心のなかでナビにツッコミを入れ、この先に希望の光、いや、宿の明かりが見えるだろう、見えるはずだと信じていた。その期待は、いま目の前で舞い散っている粉雪のように吹き飛んだ。
ナビが「ご案内を終了します」と僕に告げたその場所は、雪深い山の麓。軽自動車がようやく1台通れるほどの道幅で、すぐ脇には1メートルほどの雪の壁が迫る。前も後ろも見渡す限り真っ白、こんもりと雪が積もった平原にある孤独な一本道だった。
もちろん、前後に車は皆無、人間なんているはずもない。すっかり陽が落ちて、車のヘッドライトを消したら、言葉通りの暗闇。耳に届くのは、降りしきる雪を除けるワイパーのカシャーッ、カシャーッという音だけ。僕の脳内で、「ヤバい」という3文字がウルトラマンのカラータイマーのように点滅していた。

