
2013年11月16日。僕はその日の夕方、東京駅から山形新幹線に乗ると、米沢駅で下車し、レンタカーを借りて小国町に向かった。小国町は山形県の西南、新潟県との県境に位置し、周囲を朝日連峰、飯豊連峰に囲まれている。冬になると、積雪がときに5メートルにも達する日本有数の豪雪地帯だ。
小国町には、かつて東北の山中で動物を狩りながら暮らし、生計を立てていた狩猟民「マタギ」の伝統を受け継ぐ人たちがいまもいる。僕はその「小国マタギ」の取材をするために、車を走らせていた。その日はマタギの里と呼ばれる小玉川にある民宿「奥川入」に宿泊し、翌日、小国マタギの頭領に密着させてもらう予定になっていたのだ。
ナビに設定した目的地は、民宿「奥川入」。それなのに、着いた先は雪原のど真ん中。しかも、霧が出てきた。この時、車を降りた自分が、目が覚めるような冷たい風と雪に吹かれながら、一言つぶやいたことを覚えている。
「……なんも見えねえ」
これがホワイトアウトってやつか。恐らく僕は、映画『ホワイトアウト』の主演、織田裕二ばりに眉間にしわを寄せていたはずだ。焦った僕はスマホを取り出し、電話を掛けた。
「レインボーブリッジ、封鎖できません!」
違った。
「もしもし、今夜予約している川内という者なんですが、車で向かっていたら道に迷っちゃって。えーっと、いまは雪のなかの1本道にいるんですけど、え? 行き過ぎ? あちゃー、なるほど、はい、わかりしました、もう少しで着くと思います!」
民宿「奥川入」に電話をしたら、女将さんが苦笑しながら道を教えてくれた。どうやら、この一本道に入る直前の分かれ道で、間違ったほうに進んでしまったようだ。僕はひたすら車をバックさせて、きた道を戻った。それまで、頭の中に流れていた火曜サスペンス劇場のテーマ曲は、いつの間にか消えていた。
翌日、小国マタギの頭領と山を歩いたレポートは、ぜひこちらをご覧ください。