
さて、初めて南相馬に行った日、小高地区にある移住者用のお試し住宅に宿泊させてもらった。居心地のいい家で、市役所の方が歓迎会を開いてくれて、とても楽しい夜だった。
でも、眠るときに一人になって考える。この場所ががらんとして人の気配がなかった数年間を想像してみる。ここは、2011年に全住民1万2842人に避難指示が出た地域。それから2016年7月に避難解除されるまで誰も住むことが許されなかった。そして現在の住民は震災当時の1/4ほどだという。
何も知らないければ、空気が澄んでいて星がきれいな小高の街。避難区域だった時間はどんどん過去に流れていってしまうけれど、この事実はきちんと覚えておかなくちゃいけない、とぬくぬく暖かい布団のなかで誓った。
いま、小高は復興の最先端である。「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」と銘打つ『株式会社小高ワーカーズベース』は、これまでに仮設の商店街や食堂を運営。『HARIOランプワークファクトリー小高』を立ち上げ雇用を創出し、2019年には簡易宿所付コワーキングスペース『小高パイオニアヴィレッジ』がオープンして、遠方から訪れる人の玄関口にもなっている。
私もパイオニアヴィレッジができてからはいつもそこに泊まるようになった。藤村龍至氏設計の建物は、むき出しの建材の無骨な雰囲気がいい。共有スペースも不思議なつくりで、広々とした空間があり、ベニヤ板でつくられた段々のうえで人が思い思いに過ごせる。ちなみに、ここに泊まった翌朝、早起きしてコーヒーを入れ、この空間で仕事をすると妙に生産性が増す気がしている。