
茨城県常陸太田市
里山の静かな町、常陸太田市で立ち上げた〈論文〉を読む研究会。そこで出会った仲間たちと、ある論文の世界に通じる場所へと旅に出た。論文の中を旅した日々、そして76年前の歴史と、私たちの人生が交差する神戸の街を歩いた一日のことを振り返る。
最寄りのICから【E6】常磐自動車道「日立南太田IC」を下車
最寄りのICから【E6】常磐自動車道「日立南太田IC」を下車
「クリティカル・リーディング」という言葉を、ご存知だろうか。
基本的には学術論文を読むための手法であり、著者の主張を正確に理解しながら、その主張を批判的に読解する手法をいう。大学のゼミなどで経験したことがある人もいるかもしれないが、普段の生活で本を読むうえでは、めったにやらない勉強方法だろう。かくいう私も最近までやったことも、聞いたこともなかった。
私は茨城県の北部、人口4万9千人ほどの小さな町、常陸太田市に暮らしている。そしてこの町で仲間たちと共に、美と芸術の本質を問う学問「美学」の基礎文献を読むクリティカル・リーディングの読書会をはじめて、もう1年4ヶ月にもなる。
この読書会は月1、2回ほど。時々入れ替わりはあるものの、今では10名ほどのメンバーがいて、論文を読むためだけに集まるのだ。これまで7本の論文を読んできた。
参加者の世代は20代から60代までと幅広く、職業もバラバラだ。今では大学の教員や、東京都のアート・プロジェクトに関わる職員など、地域の外から専門の人たちも加わっている。読む論文は主に海外のものを中心に、現代の美術を取り巻く状況を理解するために必要なものを、毎回みんなで話し合って決めている。
つまりは指導教官のいない自主ゼミのようなものなのだが、在野で、しかも茨城の片田舎では、珍しくも熱心な美学の研究会だと自負している。
熱心な研究会だが、最初はたったの4人で始めた。これがこんなにも熱く、ずっと続くものになるとは、当時は予想もつかなかった。
この研究会の名は、「メゾン・ケンポクの読書会」という。