

奥多摩の素晴らしいところは、駅を出て5分も歩かないうちに、深い渓谷地帯に突入することだ。川沿いのルートは平坦だが、周囲には岩がゴロゴロし、足元にはしぶきをあげる川が勢いよく流れる。時折現れる吊り橋も気分をもりあげてくれる。いきなりのアドベンチャーモードに、全員のテンションがぐんぐんと上がった。
「うわあ、景色が最高だね!」
完全なる錯覚だが、まるでどこかの秘境を探検している気分だ。娘も臆することもなくずんずんと足を運んだ。
川岸に降りられるルートを発見し、私たちは足元を確かめながら河原に下りた。河原から見上げた渓谷はまた一層美しく、ひんやりと静謐な空気が頬をかすめていった。川は、あの日に見た通りにエメラルドグリーンをしていた。
時折、水の中では魚が跳ねた。本当ならばここで釣りができたのかもしれない。
「魚だよ、あそこ」
「ほんとだねー」
私たちはしばらく川を眺めていた。
さっきまでの雨のせいか、周辺を歩いている人はおらず、私たちは広い渓谷を独占していた。
この瞬間、ああ、来てよかった、と思った。
引き返す理由はたくさんあったけど、やっぱり来てよかった。