未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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農業未経験でヘーゼルナッツ栽培に挑んだ男の12年 閑静な住宅街に行列ができる「一度も凍らせないアイス」誕生の舞台裏

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.283 |25 June 2025
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#9「ヘーゼルナッツ学校」を開校

ヘーゼルナッツ栽培がメディアに取り上げられるようになると、「自分もやってみたい」「苗木を購入したい」といった問い合わせが増加した。

2023年、岡田さんはヘーゼルナッツの栽培・加工・販売の研修ができる「ヘーゼルナッツ学校」を開校する。

なぜ「学校」という形で始めようと思ったのだろうか。

「当初は無料で個別に相談に乗っていましたが、そのうち人数が増えてきて、大人数を相手にセミナーのような形で講演するようになりました。でも……」

岡田さんは苦笑いした。

「さっきも言ったけど、僕は飽き性なんです。セミナーで同じような話を繰り返すのは、本当に楽しくなかったんですよ」

そこで1日1組(2名まで)限定で、マンツーマンの研修をすることに。受講者は沖縄以外の46都道府県から訪れ、開校から2年半で500組を超えた。

「受講者がくると、まず身の上話から聞くんです。これが楽しくて全然飽きないんですよ。十人十色の人生経験や農業における試行錯誤が知識として自分に蓄積されるので、勉強になるんです」

受講者のうち90パーセントが、実際にヘーゼルナッツの栽培を始めている。収穫した果実はすべて岡田さんが買い取るため、販路開拓の手間や売れ残り、廃棄の心配はない。

気になるのは、どれほどの利益を得られるかだ。岡田さんいわく、1000本の成木から5トン収穫したとして、そのまま販売すると利益は約400万。ペーストや粉末、焙煎などの“1次加工”をすると、利益は約5倍に上がるという。

「アイスや焼き菓子のように“2次加工”まで行うと、さらに稼げます。でも店舗建設や設備には大きな資金が必要ですから、そこまで踏み出せる人はまだ少ないですね」

現在、加工・販売まで踏み出した人は全国に5人。そのうちの一人である藤森明浩さんがオープンした「つくりたて生アイスの店Het’s」(長野県諏訪市)は、行列のできる繁盛店になっている。

店内にはアイスのほかにも、ヘーゼルナッツの加工品が。ヘーゼルナッツペースト55%+ホワイトチョコレート46%の黄金比でつくられた「はしばみスプレッド」(550円)。
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