長野県長野市
「一度も凍らせないアイス」と聞いて、どんな食感を想像するだろう?長野市にある、つくりたて生アイスの店「ふるフル」では、一度も冷凍せず独自の製法でつくるアイスを販売している。もちろん、冷凍していないからお取り寄せはできない。つまり、現地に行かなければ食べられないというわけだ。「そうと知れば行くしかない!」と鼻息荒く店を訪れると、そこには生まれて初めて見るヘーゼルナッツの木と、農業のイメージをガラリと変えてくれるディープな物語が根を張っていた。
最寄りのICから【E18】上信越自動車道「須坂長野東IC」を下車
最寄りのICから【E18】上信越自動車道「須坂長野東IC」を下車
つくりたて生アイスの店「ふるフル」を訪れた日の気温は16度、肌寒い日だった。にもかかわらず開店と同時にお客さんが訪れ、昼には駐車場がいっぱいになった。長い行列ができることも珍しくなく、年間3万人が訪れるという。
……それにしても、なぜこの土地に店をつくったのだろう。駅近くにあったら、もっと多くの客で賑わいそうなのに。そう思わずにはいられないほど、ふるフルは長野市の閑静な住宅地のなかにポツンと佇んでいた。
この場所にオープンしたワケを、私はのちに知ることになる。
「いらっしゃいませ!」。ハツラツとした声が響く。レジカウンターからひょこっと現れたのは、「フル里農産加工」社長の岡田浩史さんだ。松葉杖をついた姿で現れた岡田さんに驚いていると、苦笑いしながら説明してくれた。
「横転しそうになった農業用の機械を慌てて支えたら、太ももがブチッと肉離れしちゃってね」
岡田さんは、農業未経験ながら国内ではほぼ前例のなかったヘーゼルナッツ栽培を始めた人物である。自ら世界一おいしいと言われる「ピエモンテ産ヘーゼルナッツ」の苗木をイタリアから輸入し、栽培に成功。店のすぐ隣には、青々としたヘーゼルナッツ畑が広がっていた。
「日本では年間約1万トンのヘーゼルナッツが消費されています。アイスやチョコレート、焼き菓子との相性が抜群ですからね」
その内訳を聞けば、95パーセントがトルコ産、残り5パーセントがイタリア産。つまり、ほぼ100パーセントが輸入品だという。そのため今や、多くのトップパティシエが岡田さんのつくる国産ヘーゼルナッツに注目している。
「アイス屋はね、栽培したヘーゼルナッツを商品化するための選択肢のひとつだったんですよ」
こうして始まった話には、岡田さんとヘーゼルナッツの12年が色濃く詰まっていた。