未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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農業未経験でヘーゼルナッツ栽培に挑んだ男の12年 閑静な住宅街に行列ができる「一度も凍らせないアイス」誕生の舞台裏

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.283 |25 June 2025
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#6次期社長のポストを捨ててでも

6次産業化プランナーとして月に一度、農家の人たちと酒を飲みながら情報交換をする機会を作っていた岡田さん。その場で、イタリアで撮った動画をお披露目した。しかし、彼らの反応は期待していたものとはかけ離れていた。

「ヘーゼルナッツなんて聞いたことねぇよ」

「マカダミアナッツなら知ってるけど」

「あったけぇとこのもんだろ」

ヘーゼルナッツはアーモンド、カシューナッツに並ぶ世界三大ナッツ。にもかかわらず、ほとんど認知されておらず見向きもされなかった。

肩を落とす暇もなく、岡田さんは次の手に出る。自社の会長に「うちでヘーゼルナッツを栽培しませんか」と持ちかけたのだ。しかしここでも、「ばかやろう!」と一蹴されてしまう。

「会長はもともと農家の息子で、農業が嫌で商社の仕事をしていた人ですから、『収益化するまでに何年かかると思ってるんだ。やりたいならひとりでやれ!』と言われてしまいました」

38歳の時に常務取締役に就任していた岡田さん。このまま会社にいれば社長のポストが待っている。頭ではわかっているのに、どうしても諦められなかった。

「会社を辞めてもいいか?」

妻・珠実さんに言うと、案の定猛反対された。

「僕も家内も農業未経験だし、反対するのは当たり前ですよね。それに娘がハワイの大学に通っていたから、『学費もあるのにどうするの』と言われました。でも家内は、僕が言い出したら聞かないことをわかっていた。最後にはしぶしぶ了承してくれたんです」

2013年、岡田さんは53歳で会社を早期退職した。

「次期社長の座を捨ててでもやりたかったんですね」と私が聞くと、岡田さんはこう答えた。

「やりたかった、じゃなくて諦めちゃいけないと思ったんです。ヘーゼルナッツは日本でつくる意味がある農作物だ、海を渡ってくる輸入品に負けるはずがないって」

ヘーゼルナッツの花穂(かすい)。
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