未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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農業未経験でヘーゼルナッツ栽培に挑んだ男の12年 閑静な住宅街に行列ができる「一度も凍らせないアイス」誕生の舞台裏

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.283 |25 June 2025
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#10アイスは物理と科学の世界

価格はシングル400円、ダブル450円、トリプル500円。

話を聞き終えると、岡田さんがアイスを盛ってくれた。心の中で〈おいしそう〜!〉と小躍りする。

アイスの写真を撮っていると岡田さんが言った。

「すぐに溶けちゃうから早く食べた方がいいよ!」

その言葉通り、カップを持つ手にタラ〜ッとたれてくる。なにせこれは、一度も凍らせないアイスなのだ。

まずは、岡田さんおすすめの紅ほっぺをひと口。甘酸っぱくて、ふわっとなめらかで、口当たりがいい……。食感はまるでソフトクリームだ。でもあと味はさっぱりしていて、もったりとした感じがない。

お待ちかねのヘーゼルナッツを口に含むと、香ばしいナッツの風味がぶわっと広がった。思わず「香料を使っていないんですよね?」と確認してしまうほど香り高い。そしてすごく濃厚なのに、さわやか。

牛乳(左)とヘーゼルナッツ(右)。

「うちのソルベは乳製品を使わないんですよ。果物のアイスは、果実と糖分と水でつくっています」

そう聞いて、不思議な気持ちになった。「果実と糖分と水」と聞くと、シャーベットのようなシャリシャリした氷菓をイメージする。でも食感は間違いなくソフトクリームなのだ。

「甘さを調節するために水を増やすと、シャリシャリとした食感になってしまいます。これは独自の製法でなめらかな食感になるようにつくっているんです」

話に聞き入っていたら、突然問われた。

「ソフトクリームって、銭湯とかサービスエリア、どこで食べてもハズレがないですよね。なんでだかわかりますか?」

頭上に大量のハテナを浮かべていると、「作りたてだからです」と教えてくれた。

「アイスは、一度つくるとすべてバットに取り出して、その後マイナス15〜18度くらいで冷凍します。でもソフトクリームは、原料が常にマシンのなかにありますよね。シリンダー内で循環してて、注文を受けてから盛る。常に作りたての状態だから、おいしいんです。僕はアイス屋で働いていたときからソフトクリームが究極の生アイスだと思っていたので、それ限りなく近づけようと日々研究しています」

おいしいソフトクリームの製品温度は、だいたいマイナス7〜8度といわれる。ふるフルのつくりたて生アイスは、 これに近いマイナス9度で製造・保管しているという。

通常、アイスに賞味期限はないが、ふるフルでは作り置きはしない。「その日つくったものを、その日のうちに」が鉄則だ。余った分をカップ詰めして冷凍・販売する方法もあるが、「味が落ちてしまうから絶対にやらない」という。

毎日マシンのセンサーとにらめっこしながら、生アイスを製造する。数値やデータで管理するため、岡田さんいわく「アイスは物理と科学」。

メディアに引っ張りだこになった現在、店舗拡大や、アイスの取り扱いを希望する声が毎日のようにあると言うが、岡田さんに現状のスタイルを変える気は一切ない。

「僕のモットーは『バズらない、映えない』です。毎年の売上目標も、前年比103%。だって瞬間的に人気になっても意味がないから。ヘーゼルナッツがじわじわと長野に根付いて、100年後に国内自給率が100パーセントになっていてほしい。そして僕の最終目標は、年間400万人が訪れる『ラ コリーナ近江八幡』のように、畑や見学できるヘーゼルナッツ加工工場、お菓子工房、生アイスを扱うカフェ、長野の農産物の直売所などを併設した観光名所になり得る場所をつくることです」

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