塚原さんは松本市で生まれ育った。「大学卒業後はいろいろなことをやってきた」と笑う彼女のキャリアは、美容部員や広告会社の営業、番組制作、結婚式の司会、病院長秘書など多岐に渡る。
ラジオパーソナリティになったのは2013年。SBC信越放送に勤める知人が、塚原さんが病院長秘書を辞めたと知り、拾ってくれたのだった。
「『スタッフとして入りなさい』と言われたから制作を手伝うのだと思って打ち合わせに行ったら、資料に『しゃべり手:塚原正子』って書いてあったんです。司会の経験もあったから、できるだろうと思われたんでしょうね。でも私は小学生の時から吃音があって、体調がよくない時は今でも症状がでるから、すごく不安でした」
吃音を不安に思いながら、ラジオの生放送に毎日出演するのは相当な負担になるのでは、と想像する。「それでもやることにしたんですね」と尋ねると、塚原さんはこう教えてくれた。
「これが私のしゃべり方だから、恥ずかしいと思ってしまうのは吃音がある人たちにも失礼だなって。とりあえずやってみようと思ったんです」
ラジオの生放送には、毎日ゲストを招く。塚原さん自身が地域誌を読んで「面白そう」と思った人にアポイントを取ることもある。
数千人との多様な出会いのなかでも、印象に残っている回があるそうだ。
「畜産農家の方だったんだけど、言葉数が少ない人でね。『どんなお仕事をしているんですか?』と聞いても『豚です』って、単語一つで会話が終わっちゃう。ゲストの方にとっては、生放送だしアウェイだし、緊張するのは当たり前なんだけど、冷や汗かきましたよ。またある時は、私が次の質問のことばかり考えちゃって、ゲストの方から『私の話聞いてる?』と言われたこともありました」
どうしたら楽しく喋ってもらえるだろう、と自身の力不足を痛感しているとき、友人から「交流分析の勉強をしてみたら?」と教えてもらった。
交流分析とは、自己理解を深めること、心の仕組み を理解することで、より良いコミュニケーションの取り方を学べる心理学。教育や企業研修など、幅広い対人援助の場面で活用されているという。コミュニケーションを学びたい、と考えていた塚原さんにぴったりの資格だった。
「『もっと!まつもと』は長年レギュラーでやっているけど、ラジオは編成によって担当する番組が増えたり減ったりするから、生活のためにももう一つ軸がほしいと思っていました。それに私自身『こうあるべき』といった考えに縛られたり、他人に押し付けちゃったりしてつらくなることがあったから、心理学を学んでみたい気持ちもあったんです」